仮面ライダーW(ダブル)第六話

東映仮面ライダーW(ダブル)」。
第六話「少女……A/嘘の代償」。脚本:三条陸。監督:黒沢直輔
今回も喜劇的な甘さの中に微妙な苦味の混じる結末になった。探偵青年の左翔太郎(桐山漣)は探偵事務所内で寛いでいるとき何時も珈琲を飲んでいるが、まさしく珈琲が砂糖やミルクを加えられてもなお微妙な苦味を失わないように、自身の信じる真理と正義を自ら裏切らざるを得なかった翔太郎の心が曇りの一つもなく晴れやかであるはずはなかったからだ。
苦味を濃くした要因を、彼の相棒フィリップ(菅田将暉)は「チャチな嘘をつくからだよ」と云ったが、フィリップは翔太郎の「チャチな嘘」を非難しているのではなく、生温かく見守り、付き合っている。この苦味こそは、翔太郎の弱点であると同時に最強の美点でもあり、フィリップもそう思うのだろう。
市議会議員の楠原みやび(川田希)は愛娘あすか(大村らら)に、あすかの父の死のことを説明できないまま、「パパは仮面の騎士になった」と嘘をついている。そのことを、翔太郎は真理にも正義にも反していると考えている。そもそも彼は、この市議会議員が政治の場に幼い娘を連れ、政策の主張に利用していることを正義に反する行為と見ていた。要するに彼は、楠原みやびには二重の意味で問題があると考えていたのだ。もちろん楠原みやび自身に対してはその考えを確り伝えて、厳しく批判してもいた。しかるに流石の彼も、あすかに本当のことを説明することはできなかったどころか、楠原みやびの嘘に付き合って、云わば嘘の上書きをしてしまった。俗に「泣く子と地頭には勝てぬ」と云われるが、そうでなくとも人情にもろい翔太郎に、幼い少女に現実の厳しさを知らせることなんかできるはずもなかった。だからこそ彼は自称「ハードボイルド」の探偵ではあるが、現実には「ハーフボイルド」(半熟)の探偵青年に止まる。それは彼の美点であり魅力あるところでもある。だが、そもそも楠原母子の問題は楠原母子の間で解決されるべきであることも確かだろう。翔太郎も、仮面ライダーWが楠原あすかの「パパ」であり「風都を守る仮面の騎士」であると嘘をつかれたことによって楠原母子の問題に巻き込まれてはいるが、本質的には彼は探偵、目撃者であるしかないのだ。
一つ見落とせないのは、翔太郎が「チャチな嘘」をつく直前、あすかに本当のことを語ろうとしたとき、あすかの手が震え、震えを抑えるかのように手に力がこめられていたことだ。実は心のどこかで微かに「パパは仮面ライダー」ではないことを感じ取ってもいるのではないだろうか。翔太郎が敢えて嘘をつかずにはいられなかったのも、あすかが既に母みやびの言が嘘であるかもしれないことを感じているのかもしれない気配を、察知したからこそではないだろうか。それは換言すれば、楠原母子の問題が楠原母子の間で解決されるはずである気配を感じ取ったということではないだろうか。事件の解決後、事件の依頼人の楠原みやびが市議会議員を辞職したのは、事件を通して何かを決意したことを物語る。
他方、秘密結社「ミュージアム」を支配する園咲一族の本家の長女の婿、園咲霧彦(君沢ユウキ)は今回、「ナスカ」に変身して翔太郎&フィリップ=仮面ライダーWの前に現れ、初の直接対決を挑んだ。短時間ながらも激しい戦闘の末、仮面ライダーW勝利に終わったが、勝因は翔太郎の無謀な作戦にあった。ナスカに打撃を与えたその攻撃はフィリップにまでも小さくない打撃を与えてしまったが、そういう結果になるだろうこともフィリップには概ね予測できていたようだ。謀略家の霧彦から見れば仮面ライダーW=翔太郎のこの戦い方は「馬鹿」でしかないが、その馬鹿さ加減こそが霧彦にとっては予測できない強さに他ならなかったところが面白い。だが、霧彦は仮面ライダーWの馬鹿さ加減を知ってしまった。打ち破られる恐れがあるのだ。
仮面ライダーWの形姿が古代ギリシアの流麗な美青年の裸体を想起させるのに対し、ナスカの形姿は重装備の騎士のようでもある。敢えて両者ともに古代彫刻に譬えるなら、仮面ライダーWがオリュンピア競技会の若い選手のような爽やかな肉体美を持つとすれば、ナスカは半神半人の英雄のような強面の肉体美を持つ。似た印象を与えながらも対照的な姿をしている。