仮面ライダーW(ダブル)第十一話

東映仮面ライダーW(ダブル)」。
第十一話「復讐のV/感染車」。
脚本:長谷川圭一。監督:諸田敏。
左翔太郎(桐山漣)は今回、フィリップ(菅田将暉)からも、鳴海亜樹子(山本ひかる)からも「馬鹿は風邪をひかない」だとか「馬鹿は高い所が好き」だとか散々馬鹿にされてしまっていたが、反面、相変わらず彼には知識や計算能力を超えた頭のよさ、勘のよさがあるところも描かれた。彼の直観の程は、暴走する黒い車を初めて見たとき「あの車は泣いていたんだ」と感じ取ったところによく現れた。実際、あの「感染車」は泣いていたに相違ない。その悲しみが最も強烈に表れたのは、今朝の第十話の後半、感染車が標的のひき逃げ犯の親玉を追い詰めていた現場に仮面ライダーWが到着したときのことだ。仮面ライダーWによって邪魔されて倒されて破壊されて前輪を失ってもなお執念深く悪人を追跡し続けようとした感染車とそれを運転する被害者家族の姿は、確かに「泣いていた」と云わざるを得ない。そこにあるのは怪獣の怖さではなく、怨霊の悲しさと恐ろしさに他ならない。
今朝の話の面白さの一つは、フィリップと亜樹子に対する「保護者」としての翔太郎の立場が見事に逆転してしまった点にある。翔太郎はフィリップと亜樹子を守りたいと思っているが、実はフィリップも亜樹子もそれぞれ翔太郎を温かく見守ってもいるのだ。警察で事情を聴取されていた翔太郎を迎えに来たり、街の不良連中に銃殺されかけていた翔太郎を慌てて救出したりした亜樹子の姿は、どう見ても翔太郎の「保護者」だったし、また、「人間の屑」みたいな悪人を復讐鬼から助けようとする翔太郎なりの信念を「とても不合理だけど君らしい答えだ」と云って受け容れるフィリップも、なかなかの大人だと云える。翔太郎は確かに「保護者」だが、保護されてもいるのだ。
今回は三人それぞれの活躍も目覚しかった。
翔太郎は暴走する感染車の背に乗って危険な目に遭い、亜樹子は不良連中の親玉を尾行した。フィリップは「馬鹿は風邪をひかない」のは何故か?という難問について研究。古来よく知られるこの命題を初めて知って大いに興味を示し、「検索しなきゃ」と云って居間から研究室へ去る後姿が颯爽としていた。検索の過程で新たに「馬鹿は高い所が好き」という別の命題にも遭遇したとき、感染車の背にしがみ付いていた翔太郎が「落ちる!」と悲鳴を上げたのを感知して「君、もしかして今、高い所にいる?」と目を輝かせた。
翔太郎のライヴァル園咲霧彦(君沢ユウキ)の活躍も目覚しかった。先ずは彼の、秘密組織「ミュージアム」における存在感の程が改めて示された。彼は園咲家の中ではどう見ても弱い立場にあるが、組織の配下の者たちから見れば彼も園咲家の一員であり、園咲冴子(生井亜実)等と並び、園咲琉兵衛(寺田農)に次ぐ程の威圧感を示し得るのだろう。
そして霧彦=ナスカは、仮面ライダーWの攻撃を封じて返して、倒して追い詰めた。実に強かった。しかし感染車を無事に逃したところで安堵したらしく、この折角の機会に、敵に止めを刺そうともしないで去った。暢気にも程がある。今の彼は、ガイアメモリの機能の感染や、感染による死という予想外の事態の持つ可能性に夢中になっていて、他のことは眼中にないのだろう。
霧彦の部下の名は「根津」。他に六本木や乃木坂もいるのだろうか。
最初の事件のあった夜の翌朝、風都警察署の取調室における翔太郎からの事情聴取では、何時もは翔太郎から「ナマクラ」とか「マッキー」とか呼ばれている真倉俊(中川真吾)が翔太郎を「ヘボ探偵!」呼ばわりで、まるで刑事ドラマにおける取調のように激しく厳しく問い詰めた。何時になく恰好よい感じだっただけに、翔太郎に食わせるためのカツ丼の大盛を買って来い!と刃野幹夫(なだぎ武)から命じられたあとの、「朝からやっているかな…」と心配しながら走り去る姿が辛そうに見えた。ちなみに風都警察署の外観は、東京国立博物館にある法隆寺宝物館に瓜二つ。