仮面ライダーW(ダブル)第十二話

東映仮面ライダーW(ダブル)」。
第十二話「復讐のV/怨念獣」。
脚本:長谷川圭一。監督:諸田敏。
結婚詐欺師に対する恨み、怒りをもはや止められなくなっていた怨霊ドーパント。左翔太郎(桐山漣)が「止めてやるよ!俺が。必ず…」と云って仮面ライダーWに変身しようとしたとき、フィリップ(菅田将暉)が「それを云うなら、『俺たちが』だろ?」と呼応して一緒に変身した。二人で一人の仮面ライダーWならではの格好よさがある。
この格好よさの前提として、この直前まで翔太郎とフィリップが対照的な行動を取っていたことの効果は不可欠である上に絶大でもある。フィリップは、知と情報を集積する精神のみの場としての「地球の本棚」に、意識不明のまま怨霊と化した山村幸(松岡璃奈子)の魂を呼び寄せて、「君のことを本気で救おうとしている男」である翔太郎の代理人として、その怨霊に語りかけて説得を試み、他方、翔太郎はその魂をどうすれば救えるのかを知るため、街へ出て走り回った。語るフィリップと、走る翔太郎。
フィリップから「俺たちが」と云われたときの翔太郎の、笑顔になるのを堪えたような、嬉しそうな眼と口元が印象深い。
だが、今朝の第十二話において最高に格好よかったのは、何と云っても、怨霊ドーパントを跡形もなく消滅させて戦い済んで変身を解除したあとの翔太郎が、怨霊に追われていた男に対して「おまえの罪を数えろ!」と云い放ったところだった。通常これは仮面ライダーWが街を悲しませるドーパントに対して放つ決め台詞だが、今回は違った。なぜなら怨霊ドーパントは悲しみに満ちた被害者であり、罪を数えるべきは結婚詐欺師の三流画家、湯島則之(坂田鉄平)に他ならないからだ。
この男は罪深いが、翔太郎は仮面ライダーWとして彼を退治することはできない。なぜなら翔太郎は私立探偵であって仮面ライダーでもあるが、警察でもなければ検察でも裁判官でもないからだ。探偵であるから依頼人のために加害者を追い詰めることはできるが、生憎、今回の事件のもともとの依頼人は犯罪者集団の一員だったし怨霊ドーパントによって既に呪い殺された。そして加害者は、真に救済されるべき犯罪被害者の怨霊だった。眼前の悪人に対して翔太郎は、探偵としても仮面ライダーとしても、どうすることもできない。だから彼は、救済されるべき魂の悲しみを想像して、眼前の結婚詐欺師を殴った。正義を愛する情熱的な一人の男子としての、唯一の選択肢だったと云わなければならない。
こんなにも最高度に格好よい翔太郎。でも彼は「俺は風邪なんか引かねえんだよ!」とも発言した。先週の第十一話では「馬鹿は風邪をひかない」と云われて怒っていたが、今週の冒頭では「風邪をひかない馬鹿」と云われても「はいはい」とだけ応じて、挙句の果てに「俺は風邪なんか引かねえ」。どうして風邪をひかないのか理由を聞かれても応えられず笑って誤魔化していた。
その冒頭の場面。鳴海探偵事務所長の鳴海亜樹子(山本ひかる)が出勤してきたとき、フィリップは朝食を摂っていた。あれを拵えたのはフィリップ自身なのか、翔太郎なのか。
園咲霧彦(君沢ユウキ)は、VIRUSガイアメモリの機能が、身体から切り離された精神と一体化して怨霊と化すという異常事態を「新発見」してその可能性に賭けてみようと期待していた。気が大きくなり過ぎたのか、義妹の園咲若菜(飛鳥凛)相手に強気な態度に出てしまう有様。ところが、それは「新発見」でも何でもないと判明。既知のことであるのみならず期待できる程の可能性もないことを淡々冷酷に告げて去る妻の園咲冴子(生井亜実)の背後で、呆然と立ち尽くし、やがて椅子の上に座り込んだ霧彦。哀れ。
しかし、この視聴者待望の霧彦の悲劇には今回、極めて重要な情報が含まれていた。ガイアメモリの機能が身体から切り離された精神と一体化する事態を、園咲家の幹部が既に把握していたという事実がそれだ。なにしろ仮面ライダーWへ変身している間のフィリップの身体の抜け殻のような状態は、山村幸の身体の状態に極めて似ているからだ。