仮面ライダーW(ダブル)第十五話&劇場版ビギンズナイト
東映「仮面ライダーW(ダブル)」。
第十五話「Fの残光/強盗ライダー」。脚本:三条陸。監督:柴崎貴行。
劇場版「ビギンズナイト」。脚本:三条陸。監督:田崎竜太。
風都の人々を守るヒーロー、正義の味方として親しまれ、愛され始めている仮面ライダーの正体が、ハードボイルドを気取る冴えない探偵青年、左翔太郎(桐山漣)に他ならないこと、そして鳴海探偵事務所の鳴海亜樹子(山本ひかる)もそれに関係しているはずであることを、園咲冴子(生井亜実)も園咲霧彦(君沢ユウキ)も知っている。だが、そこにもう一人、地球上の全ての知を掌握し得る少年も関係しているはずであることを園咲霧彦は知るはずもない。それを知るのは園咲冴子だけだ。翔太郎が「フィリップ」という名で呼んでいるその少年、相棒フィリップ(菅田将暉)を、園咲冴子は手の込んだ罠を仕掛けて巧妙に誘き寄せ、「来人」(ライト)という名で呼んで連れ去ろうとしている以上、フィリップの本名が来人であり、園咲家にとって身近な存在だったろうことは明白だ。
しかも、園咲家の当主、園咲琉兵衛(寺田農)が自身の後継者となるべき長女の冴子との会話の中で、そろそろ新種のガイアメモリを発明すべきではないのか?と忠告したのに対して冴子は「その件も現在進行中です」と応え、そして霧彦によれば最近の冴子は柄の悪い男と密会しては何事かを謀っている様子であるとのことであり、実際、柄の悪い強盗の男を利用して翔太郎を捕らえ、来人=フィリップを誘き寄せたのである以上、ガイアメモリの新種の発明とフィリップの誘拐=来人の奪還との間には重要な連関があるだろうことも自明であると云わざるを得ない。
このことの意味を深く味わうためには、翔太郎とフィリップの出会いの夜、仮面ライダーWの「本当の始まり」の夜、「ビギンズナイト」を知らなければならない!と確信し、今朝、この第十五話を見終えたあと直ぐに準備をして外出し、道後から衣山へ歩いて、衣山シネマサンシャインで見てきた。映画「仮面ライダー×仮面ライダーW&ディケイドMOVIE大戦2010」を。
全三部からなるこの映画の第一部は「仮面ライダーディケイド完結編」。これを見て、「仮面ライダーディケイド」という番組が一個の世界を備える物語ではなく、いくつもの物語世界の存在を語り継ぐ碑文に他ならなかったらしいことは「大体わかった」。語り口が不正確で偏向していたことにしても、姿形が人間離れしていて無機的で生命感を欠いていたこと(仮面ライダーWが古代ギリシア彫刻のような美麗な容姿をしているのとは正反対!)にしても、理由はそれが碑文や古文書の類だったからなのだと考えれば肯ける。門矢士は数ある仮面ライダー世界を目撃し、記憶する。記憶は写真帖の形を取る。写真は全ての事象を正確に記録できるわけでもなければ眼前の事象を見える通りに余すところなく記録できるわけでさえなく、世界の一部だけを関心や意図や技術や偶然によって掠め取るに過ぎない。でも、それでもなお、何も写さないよりは遥かに多くを伝える。探求はそこから始まるのだ。
この映画のパンフレット(通常版)を見ると、主要な出演者の内、門矢士(井上正大)以外ではキバーラ夏みかん(森カンナ)やディエンド海東大樹(戸谷公人)のことばかりが多く取り上げられていて、相変わらずクウガ=小野寺ユウスケ(村井良大)は冷遇されているのだが、この完結編で最も胸打つのは仮面ライダークウガ=ユウスケが、暴走する仮面ライダーディケイド=士を止めるため一緒に死に行こうとするところだった。
さて、仮面ライダーWの劇場版「ビギンズナイト」。正真正銘のハードボイルド探偵、鳴海荘吉(吉川晃司)と「半人前」の探偵助手、翔太郎との間の決して穏やかではなかった師弟関係、そして彼等二人と、ガイアメモリの研究所に幽閉されていた謎の少年とのそれぞれの出会いのドラマを描いていて見所は実に多かったが、衝撃的だったのは、仮面ライダーWの決め台詞「おまえの罪を数えろ」が、鳴海荘吉から継承したものでありながらもそこに全く別の含意があったことだ。半人前の癖に直ぐに未熟な決断をして暴走して、人々に迷惑をかけてしまっていた翔太郎の罪と、何も決断をしないまま悪事に加担して、人々を苦しめるかもしれない影響力を省みることもなかった来人=フィリップの罪。翔太郎とフィリップは、街を泣かせる悪人を前に「おまえの罪を数えろ」と告げるとき、それぞれ自分たちの罪をも数えていたのだ。