仮面ライダーW(ダブル)第十七話

東映仮面ライダーW(ダブル)」。
第十七話「さらばNよ/メモリキッズ」。脚本:長谷川圭一。監督:諸田敏。
風都における理髪店の隠れた名店「バーバー風」で、偶々遭遇してしまった探偵青年の左翔太郎(桐山漣)と、ガイアメモリ売人の園咲霧彦(君沢ユウキ)。両名が直ちに店を出て戦闘を始めるのは必然だったが、それに先立つこと三十分前、店内で顔にタオルをかけられていた所為で互いの姿を認識できていなかった間は、両名は逆に大いに意気投合していたのだ。
風向きの悪い日には気分転換したくなって自ずからこの店に来てしまう…という行動の法則性を、両名は共有していた。風都を愛する男子は当然この店を愛するものであるということを確信している点でも、両名は一致した。そして驚くべきことに、風都の公式マスコットキャラクターとして制定されている所謂ゆるキャラの「風都くん」は霧彦が小学三年生のときデザインして応募して採用されたものだった。それを知って翔太郎は、この話相手を敵の霧彦とも知らぬまま尊敬の念さえも抱いてしまっていた。
余りにも長閑で楽しかった一時。この余りにも短かった幸福が、来るべき恐怖と禁忌の真相と決別の悲劇を、強烈に深く際立たせるのだろうか。
この娯楽的なドラマはあらゆる細部に様々な娯楽性を仕込んでくる。例えば、翔太郎と相棒フィリップ(菅田将暉)がファングを用いて仮面ライダーWの最強形態ファングジョーカーに変身するとき、「倒れる体は私に任せて!」と云いながら駆け寄ってきた鳴海亜樹子(山本ひかる)は、何時ものようにフィリップの体が倒れてくると勘違いしたのか、或いはむしろ期待したのか、翔太郎の体が倒れるのを全く助けることができていなかった。最も格好よいはずの変身の瞬間さえも笑い所にしてしまうのが面白いが、それでもなお、迫り来る恐怖はそれをも圧しつつあるかに思える。
恐怖の源泉は無論、恐怖(terror)のドーパント、園咲琉兵衛(寺田農)に他ならない。普段は和やかな園咲家の団欒の場を、普段はその和やかさの中心をなしているはずの彼が何時になく、当主の権威によって制圧したのだ。先日クレイドールのガイアメモリを捨てた次女の若菜(飛鳥凛)に対しては、そのガイアメモリを手渡して、一家の結束から離脱しないことを誓わせるべく穏やかに脅迫し、長女の冴子(生井亜実)に対しては、新規ガイアメモリを創出し得る長男の「来人」=フィリップを何としても連れ戻すべく命じた。しかも、冴子が日々園咲家の一員として進歩しつつある夫の霧彦への愛情を口にしても、琉兵衛は現時点では未だ十全には期待してよいわけではないことを呟くのみだった。園咲家は真の恐ろしさを明らかにしつつあると見受ける。そしてその中にあって、園咲家の真相を知らぬまま、あくまでも正義のために働いている心算の、風都という街と人々を愛する霧彦は、文字通り(古代のアリストテレースの定義そのままに)真実の認知による逆転の悲劇を一身に背負いつつあるように見えるのだ。