新番組=曲げられない女第一話

今宵からの新番組。
日本テレビ系。水曜ドラマ「曲げられない女」。第一話。
脚本:遊川和彦。音楽:池頼広。チーフプロデューサー:櫨山裕子。演出:南雲聖一
司法試験に合格するまでは結婚できない!と心に誓って九年間も勉強に専念し続けてきた荻原早紀三十二歳(菅野美穂)に対し、学生時代以来十年間も交際し続けてきた恋人である若き弁護士の坂本正登(塚本高史)は結婚を申し込んだ。この結婚プロポーズの言は眼前の相手の心を迷わせないはずのないものであり、問題があったのは明白だった。なにしろ相手は弁護士を目指して九年間も努力し続けてきたのだ。司法試験のことなんか諦めて結婚してくれ!と申し出るのではなく、結婚して一緒に勉強してゆこう!と申し出るべきではなかったかと思わざるを得ない。
とはいえ彼がそのような冷徹な申し出の仕方をしたことの意図も理解できないわけではない。三回程度の受験で司法試験に合格できた彼の見るところ、彼の恋人には、司法試験に合格するために必要な能力の何かが欠落していると判定できているらしいからだ。合格できるはずのない試験のために生活の全てを犠牲にすることが幸福な生き方であるはずがない…という診断は当然あり得る。別の生き方を見つけるためにはそうした診断が必要だ。合格の可能性がないことを厳しくも率直に指摘して助言を与えることは一つの優しさの表現だ。
問題があるとすれば彼がそのことを今まで永らく云い出せないでいたことだ。なにしろ荻原早紀は彼の申し出の言の意味を正確には理解できていなかったからだ。彼の持前の過度の優しさが、感情を封印して生きている恋人には逆に、冷酷な結果に繋がったと云うほかない。
ところで、荻原早紀の現在の生活については劇中に具体的な数値まで出して描写された。あんなにも写実主義的に具体化された以上、それについて現実主義的に批判することは必要だろう。
問題の核をなすのは家賃だ。東京の多摩にある広々として高級なマンションに居を構えているが、その居室は過去に不吉な事件があったらしく、毎月の家賃は通常よりも格安の七万円だと説明されていた。なるほど、東京都内の高級な賃貸マンションとしては格安だろう。だが、家賃の金額の妥当性は収入額に比例して変動する。ごく大雑把に考えるなら、月七万円の家賃を支払うことができるためには月三十万円程度の収入が必要ではないだろうか。しかるに荻原早紀の収入は、劇中、時給千二百円と説明されていた。一日に付き八時間程度の勤務時間で週休二日と想定するなら、月収は二十万円程度。そこから国税や都税、年金保険料等も支払わなければならないし、光熱水費も要するわけだから、月七万円もの家賃を支出していたら生活は成り立たないのではないだろうか。千葉や茨城で月四万円程度の部屋を探すことを勧めたい。それとも「都落ち」なんて「曲げられない」とでも云うのか。
テレヴィ業界の人々は基本的に裕福であるのだろうから、格差や不景気について理解する能力を欠いているのかもしれない。大概どのドラマを見ても、劇中の貧乏人たちは金銭感覚を欠いているとしか思えない。どうせ貧乏人のことなんか解っていないのなら、無理して貧乏人を描かなくともよいのではないだろうか。