仮面ライダーW(ダブル)第十九話

東映仮面ライダーW(ダブル)」。
第十九話「Iが止まらない/奴の名はアクセル」。
脚本:三条陸。監督:石田秀範。
仮面ライダーを描くドラマでは大概、ライヴァルが初めて登場する話は主人公を愚弄する形を取るが、この「仮面ライダーW」物語の第二部の始まりを告げる仮面ライダーアクセル=照井竜(木ノ本嶺浩)の登場には、かなりの意地悪とも云える要素が仕組まれている。
なにしろ、吾等が主人公、ハードボイルド探偵を標榜してはいるものの現状は残念ながらハーフボイルド(半熟)に留まると云われている探偵青年の左翔太郎(桐山漣)の眼には、風都警察署に若き警視として着任した刑事の照井竜が、翔太郎よりもハードボイルドの理想を体現しているように見えるらしいからだ。
翔太郎は何だか照井竜に負けているかもしれないと感じて焦っているし、対する照井竜は翔太郎と仮面ライダーWを徹底的に馬鹿にする。たとえ仮面ライダーW=鳴海探偵事務所の力を認めたとしても、「Wも大したものだ。頭脳だけはな」とも付け加えて、仮面ライダーWの戦闘能力と翔太郎の能力を馬鹿にすることを忘れない。翔太郎に肩入れしている視聴者にとっても、かなり焦る展開だ。
こんなときに翔太郎のために怒ってくれるのは当然、相棒フィリップ(菅田将暉)と上司の鳴海亜樹子(山本ひかる)だ。普段は翔太郎をからかってばかりいるが、信頼は本物だからだ。翔太郎とフィリップと仮面ライダーWを馬鹿にする照井竜に対して、普段は冷静なフィリップも「不愉快な男だね。僕たちへの侮辱は許さない」と怒った。亜樹子も同じ気持ちだったろう。今回の事件における犯人ドーパントの正体と目される片平真紀子(大沢逸美)が翔太郎と亜樹子を「街の野良犬か。じゃあ無視。とっとと消えて頂戴」と馬鹿にしたとき、亜樹子が直ぐに憤慨したことがそれを証明する。
もちろん翔太郎も何時までも黙っているわけではない。本来は彼こそ最も感情的な男だ。片平真紀子の「街の野良犬か」発言に対しては彼も、「そうはゆかねえな。野良犬にもプライドがあるんでね。あなたが街を泣かす人間なら、噛み付くしかない」と反応した。この言はそのまま、照井竜から受けた愚弄の数々に対する反抗にもなり得ている。
こうして不図気が付けば、面白いことに、仮面ライダー物語では毎度馴染みの話とも云うべきライヴァル登場に伴う主人公への愚弄は、逆に、主人公の意地と誇りと結束を改めて証明する絶好の機会にもなっている。
さらに追い討ちをかけたのは、照井竜=仮面ライダーアクセルの変身後の姿。まるで乗り物のような恰好だったのだ。「さあ、俺の背中に乗れ」とでも云い出すのではないかと思ってしまったではないか。
注意しておきたいのは、仮面ライダーアクセルの決め台詞が「絶望がおまえのゴールだ」であること。これは仮面ライダーWの決め台詞「さあ、おまえの罪を数えろ」とは大きく異なる。仮面ライダーWが犯罪者に対して悔い改めることを求めているのに対し、仮面ライダーアクセルはそのような機会さえも与えず問答無用で罰を与えようとしている。英国紳士シャーロック・ホームズの相棒ワトスン博士であれば直ちに反論したことだろう。一人で警察と検察と弁護人と裁判官を兼ねてはならない!と。
半熟な翔太郎は過去の己の未熟な行動の罪深さへの反省から、人間の限界についてよく考えていて、それによって彼の正義感は裏付けられ、現実味のあるものになっているが、どうも照井竜にはそのような思慮が足りないように見えてしまう。照井竜も別の半熟野郎ではないのだろうか。
他方、秘密結社ミュージアムにおける粛清は成功しつつあるかに見える。園咲琉兵衛(寺田農)は、裏切り者の園咲霧彦(君沢ユウキ)の処刑をその妻の園咲冴子(生井亜実)自身に執行させた上、園咲若菜(飛鳥凛)に対しては組織=家族への裏切りが命取りであることを思い知らせ、家族の結束への正式な参加を命じたのだ。まさしく恐怖政治と云わなければならない。