旅行記七/美少年アンティノオス像と美青年神アポローン像のある風景

旅行記七。朝起きて荷物をまとめ、NHK朝の連続テレビ小説ゲゲゲの女房」を見て休憩。水木しげる=村井茂(向井理)が散歩中に見出して、自身の助手に起用することを決意した元漫画家の若い男は、路上生活者のような格好をしてはいても、長い髪と髭の間に見える顔立の甘い美しさは際立っていて、これを演じているのは誰?と思って確認してみれば、なるほど、このところNHK時代劇によく出演している斎藤工だったのか。約十年前から変わることなく美しくあり続けているのが凄い。
見終えて、八時二十分頃からホテルの食堂で大いに朝食。金曜日と日曜日と昨日の三日間に購入した展覧会図録十数冊を宅配便で自宅に送付すべく手続をしたのち、朝十時にホテルを退出。
JR上野駅から新橋駅へ移動。古代のアンティノオス大理石像が設置されているという新橋五丁目22-10松岡田村町ビルを目指して歩いた。日比谷通を暫し歩けば、確かに、高層建築のピロティ(支柱)の内側、玄関の脇に白く美しい大理石像が立っているのが見えた。古代ローマハドリアヌス帝の寵愛を受けた美少年アンティノオスの像がこんなところに立っているとは、何と面白い光景だろうか。夢中になって様々な角度から写真を撮影した。
不図その脇の玄関のガラス壁の中を覗いてみれば、何と!中にも古代の彫刻があることに気付いた。このビルに関係のない者がビルの玄関の中に入るのは流石に不味いだろうか?と躊躇したものの、思い切って中へ入り、手前にある二世紀のアポローン大理石像と、奥にある同じく二世紀の着衣女性立像とをそれぞれ様々な角度から撮影した。
ことにアポローン像の美しさには驚嘆した。顔の、真横から見たときの口元だけは少々残念な出来栄えであるような気がしたが、高く上げられた右腕から腋、腹、腰を経て右脚にかけての曲線が流麗であるし、腹の、臍とその周囲や、両脇腹から股へ向かうV字型の筋肉の絶妙な凹凸の造形は豊かでありながら爽やかでもあるし、両脚の交錯が作り出す複雑な曲線は美の極みと云うほかない。
大いに感銘を受けながら不図その脇にある説明版を見れば、かつてはフランス貴族リシュリュー家の旧蔵品だった由、大革命のとき破壊されたものの、心ある他の貴族によって救出されて今日まで伝えられたこと等が記されていたが、さらに重要なことに、現在これ等の作品群が松岡美術館の蔵品である旨も記されていた。松岡田村町ビルの「松岡」とは松岡美術館(港区白金台5-12-6)の「松岡」だったのか。著名な美術館の蔵品を勝手に写真撮影するという極めて無作法なことをしてしまっていたことを心から反省しつつ、十一時頃、そこをあとにした。
新橋駅へ戻る際に、来た道とは別の道を歩いてみたところ道に迷ってしまい、少々焦りつつ歩けば辛うじて汐留駅へ漂着。空中に設けられた歩行者専用道路を歩いて無事JR新橋駅へ戻り、そこから浜松町駅を経て羽田空港へ到着。夕方五時前には帰宅した。