仮面ライダーW第四十八話

東映仮面ライダーW(ダブル)」。
第四十八話「残されたU/永遠の相棒」。
脚本:三条陸。監督:石田秀範。
フィリップ=園咲來人(菅田将暉)が消滅した日の、翌朝。あの場面の悲しみと面白さについて少し考えよう。
左翔太郎(桐山漣)が嘆き悲しみ、涙を流していたとき、鳴海亜樹子(山本ひかる)は園咲家の愛猫だったミックを抱きしめ、そして負傷の照井竜(木ノ本嶺浩)は、顔も身体も包帯を巻き付けた上に辛うじて何時もの赤い上着を重ねた奇妙な恰好で、しかも車椅子に乗って亜樹子の前に寛ぎ、何時ものように珈琲を飲んでいた。
彼は翔太郎や亜樹子の淹れる不味い珈琲、或いは少なくとも美味ではない珈琲を好まないようであるから、あれは彼が自ら淹れた珈琲である可能性が高い。あんなにも重症の身体で。もちろん彼もフィリップの消滅を悲しんでいるはずだし、同時に、フィリップの消滅を誰よりも深く重く悲しんでいるに違いない翔太郎の心をも心配して、それで敢えて自身の重傷をも顧みず鳴海探偵事務所に来たのだろう。だが、普段からは変わり果てた恰好で普段と同じように過ごしている照井竜の間抜けな姿は、悲しみの翔太郎との間に余りにも大きな落差を生じて、それが異様に面白くもあった。
だが、この笑える部分が翔太郎の悲しみの深みを際立たせてもいることはやはり見落とせない。これまで彼等はどんな大きな困難に見舞われようとも、やがてはそれを乗り越えて、何時もの楽しく幸福な日常生活を取り戻してきた。まるでミイラのように全身に包帯を巻いた重症の身でありながら普段の通り珈琲を淹れる照井竜は、彼自身の悲しみにもかかわらず、家族のいない翔太郎を家長とする鳴海探偵一家の日常の幸福の継続を表しているように見受ける。ところが、その肝心の翔太郎は、最愛の人を見失ってしまった今朝、かつては彼自身が作り出していたはずの賑やかな日常の幸福を、完全に見失ってしまっているのだ。
しかし、この悲しみの結末に至るまでの翔太郎の行動には熱さがあった。今朝の第四十八話の意味は、今まで「ハードボイルドではなくハーフボイルド」と笑われてきた彼が、真のハードボイルド探偵に化した一点にあったと云えるだろう。そのことを端的に表現するのは、彼が鳴海荘吉(吉川晃司)から受け継いだ白い帽子を被って一人で強敵に立ち向かったところだ。
譬えるなら、かつて野比のび太が、ドラえもんが去りゆく前の最後の夜、ドラえもんの力を借りることなく一人でジャイアンに立ち向かい、のび太の行く末を心配するドラえもんのために、一人でも頑張ってゆけること、だから心配しなくとも大丈夫であることを証明してみせたように、翔太郎もまた、永遠の「相棒」フィリップのために、一人になっても風都を守ってゆけることを証明してみせたのだ。
印象深いのは、翔太郎がフィリップに「俺は、自分に自信が持てないんだ」と告白したところだ。
思えば翔太郎は、かつて正義感だけは強くとも知識も技術もなく、空回り気味の生意気な青年だった頃には鳴海壮吉の指導と保護の下にあったし、鳴海壮吉の没後は天才少年フィリップを最高の相棒として得て、「自分に自信が持てない」ことを誤魔化し得ていたのかもしれない。照井竜の出現は(第十八話までの物語では殆ど感じることもなかった程の)翔太郎の色々な面の弱さを吾等視聴者に散々見せ付けた(ゆえに物語の転向をさえ感じた)が、(敢えて好意的に、物語の一貫性を見出してみるなら)実は翔太郎自身が、それまでは誤魔化すことのできていた己の弱さを見詰め直さざるを得なくなっていたのかもしれない。
とはいえ、仮面ライダーWに変身することもできないまま、生身のまま、人間の身体のままで強敵に立ち向かった翔太郎の身体能力の高さ、判断力の確かさ、平和と正義への情熱の強さには改めて驚かされた。この種の見せ場が第十八話までの彼には多くあった気がする。彼がハードボイルド探偵を標榜し、仮面ライダーに変身し、街のヒーローとして皆から愛されるようになったのはやはり必然だったのだと云うしかない。