第六十五回春の院展

夕方、職場を早めに出て、三越で来週の金曜日まで開催されている第六十五回「春の院展」を観照。芸術家たちが美しさを素直に表現するのを嫌うのが当たり前のようになってしまった現在、この院展日本画家たちのように、美の伝統を踏まえながら清新な美を率直に追求する芸術家たちが健在であることは好ましいことだと思う。
よい作品は多かったが、例えば日本美術院同人の西田俊英の《湯けむり》は、温泉旅館の街に立ち上る無数の湯煙を描く白の様々な濃淡と配列がリズムを生んで心地よい。しかるにこの画の妙味は、夕暮れ時の旅館街の景観を鳥瞰するように捉えてモノクロームに近い彩色で描き出したところが、院展の再興のとき以来の同人、巨匠、前田青邨が再興第一回院展に出品した名作《湯治場》三題(東京国立博物館蔵)を想起させるところにあると思う。院展の先人や東西の古画を踏まえながら新たな伝統絵画を創出するという院展の精神が今なお生きていることを感じさせる作品が少なくないところにこの団体の強さがある。
松山三越七階におけるこの院展を見終えたあと、六階に下りて画廊における院展作家特集も観照。さらに地下の食品店街へ降りて買い物。マグロ尽くしの寿司の詰め合わせ弁当一人前が本来千二百円のところを半額で売られていた。もちろん迷わず購入した。帰宅後にそれを夕食にしたが、食べ終えたあと「もう一つ買っておけばよかった」と後悔した程に美味だった。