橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり第十部第三話
TBS系。橋田寿賀子ドラマ「橋田壽賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
最終部=第十部第三話。
野田家の騒動に関しては想起しておくに値する事実がある。二〇〇七年三月に放映された第八部第四十七話における野田家の騒動の結末のことだ。当時、野田弥生(長山藍子)は娘の野田あかり(山辺有紀)と浅田和久(深江卓次[石原軍団])との恋愛と結婚に関して、どういうわけか強い疑念を呈し続け、理不尽なまでに強硬に反対し続けていたが、結局、野田あかりは浅田和久から妙な理由で捨てられ、破局に終わったのだ。ここから得られた一つの知見として、野田弥生の直観は、たとえ何の根拠もなく、理不尽に見えようとも、意外に真理を突いているのかもしれぬということがあった。
今回も同じことが云えるようだ。野田佐枝(馬渕英俚可)が、皆が寝静まった夜中にも、寝る時間を惜しんででも己の化粧と服装と美容を整えることに余念ないらしいところが劇中で不意に強調された時点で、吾等視聴者も、野田佐枝に所謂「不倫」の気配あることを感じないわけにはゆかなかったが、何とも念入りなことにも、次回の予告の映像には当の不倫の相手までも登場していたのだ。
野田佐枝は一体どのような形で野田家からの脱出を企てるのか、そのとき所謂「連れ子」の野田良武(吉田理恩)をどうするのか、そしてその計画が果たして成就するのかは次回の第四話を見るまでは定かではない。しかし何れにせよ、野田佐枝が職場の多忙、「残業」の多さを理由にして家事を放棄していることへの野田弥生の疑念は、元来それ自体は単なる嫉妬や我が儘に基づく幼稚な感情に発したものに過ぎないにもかかわらず、結局は今回も鋭く真理に達していたのだという話になるようなのだ。
他方、小島家ラーメン店「幸楽」には野々下邦子(東てる美)が復帰した。富裕の野々下長太(大和田獏)から遂に離婚届を突き付けられ、慰謝料の代わりとして、住み慣れた邸宅をそのまま与えられることにはなったものの、かねて夫に黙って密かに「ゲイム感覚で」手を出していた株への投資が米国の所謂「リーマン危機」の影響で失敗に終わり、その結果として莫大な借金を抱えた所為で、折角の邸宅を直ぐに失うことに決まり、住処をなくして、実家へ避難するほかなかったのだ。同情の余地は一つもない話だ。
それなのに、事情を知った長男の野々下隆(森宮隆)が直ちに「幸楽」を訪ね、そこで再会し得た母のため救いの手を差し伸べたとき、強がって意地を張ってそれを拒否した野々下邦子の、自室で一人になって流した感謝と寂しさに満ちた涙には、何か心を打つものがあった気がする。