ギルティ第九話

フジテレビ系(関西テレビ制作)。ドラマ「ギルティ 悪魔と契約した女」。第九話。
この物語の支柱とも云うべき存在感のあった登場人物、堂島基一(唐沢寿明)が余りにも見事な往生を遂げた。その死は、彼を自殺に追い込んで殺害したつもりだった宇喜田元(吉田鋼太郎)の卑劣な思惑をはるかに超える彼の深慮遠謀と覚悟によって、彼の誠意と愛と高潔な生を極めて印象深く表出したと云わなければならない。
堂島基一の死のドラマは、彼が高層建築の屋上から墜落して逝去したとき、その直ぐ近くの駐車場で彼の唯一の子息、堂島基晴(澤田怜央)が働いていたことによってドラマティクに強化された。
堂島基晴は、父が行方不明と化している中、その駐車場等で健気に働いて家計を支えながら、学校に通い、学業に励んでいた。苦学生なのだ。そして父の堂島基一は、愛する子息に寂しい思いをさせ、苦しい生活を強いていることを辛く感じながらも、十五年前に己が図らずも犯した罪を償うため、野上芽衣子(菅野美穂)の復讐を助けていた。
十五年前、彼は平凡なジャーナリストの一人として、警視庁の宇喜田元から提供された嘘の情報を信じ込み、「少女A」=野上芽衣子を殺人者として大々的に報じたが、今は、真の言論人として、十五年前の真の犯罪者を暴き、野上芽衣子とともに一世一代の傑作を書き上げようとしていた。だが、悪事を働くことによって異例の出世を重ねてきた宇喜田元は、今、堂島基一を完全に抹殺して真相を闇に葬るべく、堂島基一に対して二者択一を迫った。子息を、交通事故に見せかけて殺害されてもよいのか?それとも子息の生命と引き換えに自殺するのか?と。この卑劣な二者択一に対して堂島基一は、予め呼んでおいた警視庁の榎本万里(吉瀬美智子)等に聞こえるような大声で自殺を教唆されていることを主張した上で、自ら屋上から飛び降りて死を選んだ。その直ぐ近くの駐車場では、彼の子息の堂島基晴が相変わらず健気に労働に励んでいた。
見落とせないことが二つある。(1)堂島基一にとって、宇喜田元の二者択一は流石に予想外だったらしいこと。愛する子息を人質に取られることまでは予想できていなかった様子だった。だが、それにもかかわらず(2)堂島基一は、卑劣な宇喜田元の正体を暴き、十五年前の事件の黒幕をも白状させた上で、警察に逮捕させるための条件として、自身の死を最初から覚悟していたということだ。なにしろ宇喜田元を警察に逮捕させる罪状は自殺教唆である以上、自身の自殺が不可欠であると考えていたのは間違いない。何よりも、野上芽衣子に予め宛てた手紙にも彼は自身の死のことを予告していたのだ。彼は自身もまた野上芽衣子から復讐を受けて然るべき人間であると考えていた。彼は罪を償うために言論人としての生命を賭けて十五年前の真相を究明しつつ、野上芽衣子の復讐を助け、さらに自身も復讐に応じたのだ。人質のことを除けば全ては計画通りだった。
だが、そんな堂島基一にとって、自身の愛する子息を人質に取った宇喜田元の卑劣な行為は、固より既に固めていた自決の覚悟を、さらに決定的な根拠、重大な意義のある決意へ固めたに相違ない。彼は己の死に極めて大きな意義を付け加えることができた。「本当に守るべき者を守り抜く」という信念に殉ずるという意義に他ならない。真島拓朗(玉木宏)にも語っていた信念の真理性を彼は己の行為を通して実証してみせた。