大切なことはすべて君が教えてくれた第七話
フジテレビ月九ドラマ「大切なことはすべて君が教えてくれた」。第七話。
今宵九時からこのドラマが始まって約十八分が経過した辺に来た場面のこと。明綾学園高等学校の二年一組の教室内。
児玉賢太郎(中島健人[ジャニーズJr.])が何時ものように席に座して、鉄道の時刻表を読んでいたところ、園田望未(剛力彩芽)は彼の隣席に座していた佐伯ひかり(武井咲)に話しかけるべく、彼の机の上に腰かけた。机の上に!何と無作法な!信じ難い。この下品な女は食事中の他人の食卓の上にさえも腰かけて憚らないのではないだろうか。
ともかくも佐伯ひかりと園田望未とのこのときの会話から、彼は片想いの相手である佐伯ひかりが間もなく転向する予定であることを知った。このままでは、予て心惹かれていた相手と殆ど言葉も交わさないままに別れて、二度と再会できなくなるかもしれない。そう考えて、焦った様子だった。
誰にも話しかけることなく、誰からも話しかけられることもなく毎日を孤独に過ごしている彼も、ここで一念発起、何とかして自身の想いを相手に告げたいと思ったのだろう。
続いて、このドラマが始まって約三十二分が経過した辺に来た場面のこと。明綾学園高等学校の保健室。
佐伯ひかりは、己の欲から、二年一組の担任教諭である柏木修二(三浦春馬)に淫行教師という無実の汚名を着せたのみならず、彼の婚約者である上村夏実(戸田恵梨香)にも計画的に散々嫌がらせを繰り返して、幸福な将来を徹底的に粉砕し尽くした悪党であり、どこからどう見ても加害者でしかないにもかかわらず、どういう存念か、あたかも己を被害者であるかのように思い込み、知人や友人にもそのように思い込ませて、悲劇の姫君にでもなった気分でいる。己の心を癒すべく、そして周囲からの冷たい視線を遮るべく、保健室への籠城を続けていた。
純情なオタク少年、児玉賢太郎の不幸は、彼とは対極に位置すると云わざるを得ない不純な極悪人の、しかも般若の面の如き人相の悪さを時々露呈して内面の醜さを垣間見せるこの恐ろしい悪女を、あたかも聖女であるかのように誤解して、片想いの恋心を抱いてしまった点にある。
彼は思い切って自身の想いを告白した。普段、誰とも言葉を交わすことなく無口に生きている彼にとって真剣な想いを率直に告白するのは並大抵ではない試練だったろう。彼は頑張ったが、佐伯ひかりはあの般若の面の如き表情をして本性を顕わにして、彼に対して余りにも理不尽な怒りの語を投げつけた。
この女の怒りの本当の相手は、この女の情欲、淫欲の餌食にされたばかりか自ら餌食になることを受け入れた柏木修二であるはずだ。児玉賢太郎ではない。児玉賢太郎は不幸にも理不尽な八つ当たりを受けたのだ。安い同情心に基づいて行動し、女を弄んで不幸にしているのは柏木修二だ。児玉賢太郎ではない。しかも柏木修二に弄ばれて不幸になったのは元婚約者の上村夏美であって、佐伯ひかりではない。佐伯ひかりは自分で自分を不幸にしているだけだ。自身に対しても他人に対しても加害者だ。他人に対して憤る理由なんかないし、憤るにしてもその相手は児玉賢太郎ではなくて柏木修二であるはずだ。
佐伯ひかりと園田望未と柏木修二には天罰が下されなければならない。それにしても上村夏美の見合い相手の山下有悟を演じている福士誠治にしても児玉賢太郎役の中島健人にしても、このドラマの制作者はどうして魅力ある男子に変な台詞を云わせたがるのだろうか。