高校生レストラン第七話

日本テレビ系。土曜ドラマ高校生レストラン」第七話。
料理コンテストの話。毎年、高校生のための料理コンテストがあって、相河高等学校調理クラブの高校生たちも出場してきた。もちろん今年も出場する予定になっていたが、その指導者である料理人の村木新吾(松岡昌宏)は躊躇した。
それには無論、それなりの理由があった。なにしろ、相河高等学校調理クラブは今年から「高校生レストラン」を開店し、毎週土曜と日曜の二日間だけとはいえ、実際に一人前に料理を客に供している。云わば既に「プロ」のようなことをやっているのだ。料理コンテストに出場する高校生の中に、そんな恵まれた環境にある者は他にはいないだろう。だから当然、世間、特に報道機関は彼等を優勝候補と見て期待し、煽るだろうし、優勝できなかった場合には世間、特に心ない報道機関によって揶揄され、嘲笑され、批判されることもあり得る。「高校生レストラン」の高校生たちはそれに耐えられるのか?今は実力が足りないのではないのか?と村木新吾は考えた。
なるほど、これは正しい心配だ。心ない扇動や批判に耐え得るためには、そうした無価値な言論をはね退け得るだけの実力を蓄えておくしかないだろう。実力を蓄えれば己を信じることができる。己を信じることができれば心ない声に耐えることもできる。
しかし結局、コンテストには出場することに決まった。それがどのような結果に終わり、世間ではどのように扱われたのかは多分、劇中では描かれないだろう。
むしろこのドラマが描いたのは、出場選手の選抜をめぐる高校生たちの間の不安、動揺、殺伐の発生と、その解消の話だった。
その過程に要らぬ波乱を生じてしまった責任の一端は村木新吾にもあった。なぜなら彼は選手の選抜方法として選挙を採用したからだ。有権者は選手の候補でもある「高校生レストラン」の生徒たちだけ。教師は見守るのみ。料理人として最も適切に選手を選抜できるはずの村木新吾の意見さえも、一切その選抜結果には反映されない。こんなことでは、真に優秀な者が選抜されるとは限らないばかりか、むしろ実力とは無関係な力が働いて選抜が行われる可能性さえもあり得たろう。無益な心理戦が生じたのはその所為だ。
この「高校生レストラン」総選挙の結果、坂本陽介(神木隆之介)が選挙で大惨敗を喫してしまった。
しかし思うに、集団の中で一人だけ実力において抜きん出ていて、ゆえに実力において集団を代表する者を選抜する場合には必ずや選抜されて然るべきであると誰もが信じていた者が、集団の構成員間の選挙によって代表者を選抜してみれば、意外にも選挙されず落選してしまった…という事態は常に発生し得る。競合者がその人物に投票するはずはないから、競合者が多ければ多い程、その人物は票を集められないだろうし、実力に対する嫉妬のゆえにその人物に投票しない者もいるかもしれないし、何よりも、選ばれて然るべき人物が選ばれないはずはないから敢えてその人物に投票する必要はなかろうと考えて別の人物に票を投じる者もいるだろう。
もっとも、坂本陽介の落選は他の者の落選に比べるなら傷が浅かったのかもしれない。なぜなら彼の実力は他を圧倒していることを誰もが認めているからだ。村木新吾も認めているに相違ないし、何よりも坂本陽介自身が認めている。実力があって己を信じることができれば不当な結果にも耐えることができて、立ち直ることができるに違いない。
ところで、大勢の高校生を登場させるドラマでありながら、むしろ彼等を指導する料理人の村木新吾(松岡昌宏)と相河町農林商工課の岸野宏(伊藤英明)の二人が最も熱く「青春ドラマ」を演じるのがこのドラマの特徴で、最近はそこに、村木新吾と吉崎文香(板谷由夏)との間の、まるで大昔の若者の不器用で清潔な恋愛のような場面までも加わってきたが、今宵の話では村木新吾の父である寺の住職、村木定俊(原田芳雄)の「青春」までもが明らかにされた。急にどこかへ出かけてしまって、今は不在の彼の過去の思い出と今の思いは、娘の村木遥(吹石一恵)によって証言され、あるいは想像して語られただけだったが、それでも十分な存在感を誇示した。