ドン★キホーテ第八話

日本テレビ系。土曜ドラマドン★キホーテ」第八話。
心の病に対する心理学等に基づいた慎重な接し方は、無神経な接し方よりは症状を深刻化させないだけの力を持つだろうが、問題の根本を解決し得る道であるわけでもないだろう。不登校の状態を続けていた中学二年生の高橋圭太(伊藤凌)に対して、城田正孝(松田翔太)の姿をした鯖島仁(高橋克実)は何時ものように無神経で乱暴な行動に出て、高橋圭太をますます頑なにしてしまったが、他方、京浜児童相談所の児童福祉士の人々の慎重な対処の仕方をどんなに続けたとしても高橋圭太の抱える問題は解決しなかったに相違ない。
城田正孝の姿をした鯖島仁の凄いところは、子どもの問題を解決するための道を、自身の抱える問題から連想して偶々見付け出してしまう点にあると同時に、子どもの問題なんか放置して己の問題に夢中になってしまって、それでも結局その余波で偶々子どもの問題をも解決に導いてしまう点にある。何時も大概そんな感じだ。
しかし今回はそれだけではなかった。これまでは子どもたちの問題に冷静に対応しようとしてきたはずの、鯖島仁の姿をした城田正孝までも、今回ばかりは己の抱え込んだ問題に夢中になってしまったのだ。
高橋圭太と鯖島仁と城田正孝の三人が、三者三様の、しかし似た点もある問題を抱えて、しかも三つの問題は何時しか似たような結末を迎えようとしていて、結果、三人が揃って似たような行動に走って、似たような辛い結果を突き付けられて、でも、結局はそれで三人とも、気分一新、心機一転することを得たのだ。
この三人三様の問題の結末の場は、一寸した追走劇の形を取った。今宵のこのドラマにおける一番の見せ場がそこにあったと云ってよい。
三人それぞれの片想いの相手はそれぞれ空港へ向かうバスに乗っていた。高橋圭太は空港へ行くバスへ乗ろうとしたが、乗り遅れてしまっていた。城田正孝の姿をした鯖島仁も空港へ行くバスへ乗ろうとしたが、全く間に合わず、なぜか高橋圭太がそこにいることに気付いたところで、鯖島仁の姿をした城田正孝が赤いオープンカーに乗ってそこへ来たのを見出した。こうして高橋圭太をも巻き込んで三人でバスを追走し始めた。颯爽と疾走する赤いオープンカー。華麗なる追走劇。
やがて三人を乗せた車はバスに追い付き、横に並んだが、そこには三人がそれぞれ追いかけたいと思っていた片想いの相手三人が、オープンカーからも仰ぎ見ることのできる窓のある側の席に、ほぼ並んで乗っていたのだ。何と都合のよい話!城田正孝の姿をした鯖島仁も流石に、「すげえな、このバス」と感動していた程だ。しかし彼等三人を乗せた車が派手な赤いオープンカーだったことによって、それに乗車している者の顔が、バスの乗客にも確り見える状態になっていた点も、ここにおける見落とせない要素だろう。鯖島仁に倣って「すげえな、この車」と云ってもよいかもしれない。
三人の片想いは苦く辛い結末を見たが、少なくとも高橋圭太を不登校の状態にまで追い込んでいた問題は解消した。大体、物事が全て上手くゆくはずもなく、むしろ世の中の大抵のことは望み通りには成り行かないのかもしれないが、それによって必ずしも全ての人々が不幸になるわけでもない。むしろ未解決の問題が、たとえ失敗という結末であれ、一つの終末を迎えることで明確に完結し解消することは、次への一歩を進めることを可能にする。高橋圭太を不登校の状態にまで追い込んだ片想いの苦しみの問題は、上手く行かなかったことによって完結した。この結末の苦さに味わいがある。