妖怪人間ベム第二話

日本テレビ土曜ドラマ妖怪人間ベム」。第二話。
世に変身願望を語る人は多いし、子どもたちの憧れる架空のヒーローに変身の能力は欠かせないし、古典文学にも「変身物語」があるように、古今も東西も問わず人間は大抵、変身とその能力を夢見る。痩せるとか太るとか鍛えるとか、あるいは髪型を変えるとか勉強して賢くなるとか好きな人に思い切って話しかけてみるとか云うのは、現実の人間にも辛うじて可能な、小さな変身の試みに他ならない。そうした小さな努力に重みがあるのは、人間が本質的には変身の能力を欠いているからだ。
この物語の主人公、ベム(亀梨和也)とベラ(杏)とベロ(鈴木福)は「人間になりたい」と願望している。人間と変わりない姿から「化け物」のような姿への変身の能力を具えた彼等は、変身の能力を欠いた存在者への変身を願望している。だから彼等は、人間が何か別のものに変身したいと願望していることを極めて愚かなことであると思わないではいられない。だが、反面、ベラが悩める緒方小春(石橋杏奈)に対して己の現実を確と受け止めて堂々と生きるように諭したのは、己の現実を受け容れたくない状態から己の現実を受け容れた状態への、小さな変身を促したということでもあるだろう。変身の能力を欠いている人間の小さな変身の可能性を、彼等は信じてもいるのだ。
人間の愚かしさに呆れ果てているような、冷ややかなベラの言動は、実は、変身の能力を欠いている人間の、小さな変身のための努力や勇気の可能性の大きさを信じていることに基づいているに相違ない。「わたしは嫌いな相手はとことん嫌うけど、好いなと思ったら一途なんだよ」と発言したベラの、その一途な思いがこの確信を支えているのだろう。
今回、ベムとベラとベロが退治した「化け物」の正体はコンヴィニエンス店のアルバイト店員の神林(風間俊介)だったが、緒方春菜は彼の抱えていた闇を決して他人事ではないと感じていたし、ベラもこの孤独な娘にも「化け物」に堕してしまう恐れがないわけではないことを感じながら断じてそのようにさせてはならないと考えていた。闇に隠れて生きているわけではないはずの人間も心の中に闇を抱えている場合があって、その闇に支配されるや、人間は人間のまま「化け物」に堕してしまう。愛らしい動物の容姿も、見方を変えれば怖い「化け物」の姿に見えるかもしれないという緒方浩靖(あがた森魚)の説は、観察者の視点に因る変貌を説くものだが、変身を願望する者の側の、闇の情念に突き動かされた変貌という事態とともに、今宵の第二話では、人間にとっての変身ということが、本質的には不可能であり、ゆえに努力と勇気を要する難しい試みである反面、意外に生じ易く、ゆえに危うい事態でもあるかもしれないことが明らかにされたと云えるだろうか。