金曜ナイトドラマ13歳のハローワーク第六話

金曜ナイトドラマ13歳のハローワーク」。第六話。
主人公の小暮鉄平(松岡昌宏)の恋に関する早合点と、二十二年前の世界における小暮鉄平である十三歳の無邪気なテッペイ(田中偉登)の恋に関する早合点が、全く同じだったところは面白さの一つ。テッペイ十三歳の早合点を見抜くことのできた小暮鉄平三十五歳が、自身の早合点には全く気付く気配もなかったところがその面白さを構成している。
しかし今宵の第六話における一番の面白さが、五十嵐里奈(小野花梨)の裁縫への習熟の変化にあるのは云うまでもない。十三歳の五十嵐里奈は、幸福な結婚をして良い主婦になりたいと夢見ていて、ゆえに憧れの男子の制服のボタンが取れそうになっていたのを見るや、それを直して上げたいと申し出たが、どのようにして直せばよいのかを知らず、苦闘の末に途方に暮れて、「テッペイ君のオジサン」である小暮鉄平に教示を乞うほかなかった。ところが、その二十二年後、小暮鉄平が偶々潜入した銀座の所謂「高級クラブ」で、店を経営する高級ホステスとして君臨する「リイナ」こと五十嵐里奈との再会を果たしたとき、平凡な主婦にはなれなかったものの多くの紳士に幸福感を与える人となった三十五歳の五十嵐里奈は、この大人になった「テッペイ君」の上着のボタンが取れそうになっているのを見るや、鮮やかな裁縫の技で速やかに直してみせたのだ。
十三歳の五十嵐里奈が、「テッペイ君のオジサン」である三十五歳の小暮鉄平から教えられた技と心を、二十二年後、三十五歳の五十嵐里奈が、三十五歳のテッペイである小暮鉄平に返礼しつつ、それを教えてくれた「テッペイ君のオジサン」への感謝の意を表すという見事な構図。
二十二年前の、テッペイ等の通う予備校の教室において、有能な働く女としての立身出世を夢見て猛勉強に励んでいた十三歳の田村真帆(山本舞香)は、自身とは正反対の道をゆこうとしていた五十嵐里奈を蔑んでさえいたが、二十二年後には、水商売で働く女となった五十嵐里奈とは正反対に、幸福な結婚をして、しかも主婦業に誇りを持つ良妻賢母となっていた。
しかも主婦である田村真帆の夫は「リイナ」こと五十嵐里奈の客の一人「近藤さん」であり、五十嵐里奈は彼に対しては奥方を大切にするように教え諭していた。五十嵐里奈は「近藤さん」の夫人が誰であるのかを知っているのかどうか、定かではないが、両名の間に目には見えない縁があるのも面白い。
両名それぞれの変化、逆転を生じたのは、「テッペイ君のオジサン」である小暮鉄平からの助言の力であるだけではなく、むしろそれ以上に、両名が共通して憧れて片想いを抱いていた相手である一人の美男子への手痛い失恋と、それを乗り越えようとする中での一種の連帯感の力であるに相違ない。
二人の女子が共通して憧れて片想いを抱いていた相手は、テッペイの親友である三上純一中川大志)。誰に対しても穏やかに優しく、特にテッペイに対しては最高に心優しい彼は、二人の恋する乙女から寄せられた想いを受け容れることはなかった。だが、厳正で冷静な対処でこそあれ、冷たい態度だったと云うのは当たらない。二月十四日の所謂バレンタインデイに、教室で五十嵐里奈からチョコレイトを贈られて、それを笑顔で受け取ってみせたのは、皆の前で恥をかかせるわけにはゆかないと考えたからだろう。このチョコレイトに対する彼の真の回答は、一ヶ月後に返礼をしないという形で明らかにされる予定だったはずだ。なるほど、それ以外に方法はない。
上純一の対処を何となく冷たい行為のように見せている原因は、彼が五十嵐里奈から贈られたチョコレイトを密かに捨てていた事実にある。だが、気を付けなければならないのは、彼は決して皆の前で捨てたわけではないはずであることだ。彼が贈物を捨てた事実は、五十嵐里奈の恋のライヴァルである田村真帆が、三上純一の行動を観察し、あるいは恋敵の贈物の行方を追跡していた結果としてのみ明らかにされ得たに過ぎないのだ。
いつも爽やかな三上純一の、この意外な裏面。決して納得ゆかぬ行動ではなく、むしろ説得力ある正当な行動でさえあるとはいえ、何かしら冷たさを感じさせないでもない彼のこの側面。冷徹な真相。これには何か理由があるに相違なく、しかもその理由には多分、テッペイが無関係ではないに相違ない。
次週以降の三上純一とテッペイとの関係には今まで以上に注意してゆこう。
これに関連して少々味わい深いのは、十三歳の五十嵐里奈が三十五歳の小暮鉄平から裁縫を学んだのは、三上純一の制服のボタンが取れかかっていたのを直すために他ならなかったことだ。三上純一は、好きでもない女子にボタンを直してもらったと思い込んでいるだろうが、実際に直したのは彼の大好きなテッペイ…の二十二年後の人である小暮鉄平だったのだ。
この番組の公式サイト(http://www.tv-asahi.co.jp/13sai/)にある「小テッペイ日誌」の最新記事(第六回)には、ベッドの上で田中偉登に抱き着いている中川大志の写真、そして番外編「三上純一日誌」には中川大志が田中偉登に背後から身を寄せて両手の上に両手を乗せている写真が載っている。今後の両名の展開を予想する材料になり得る写真だろうか。