パーフェクト・ブルー第七話

宮部みゆきミステリー「パーフェクト・ブルー」。第七話。
交通事故が、それを利用した被害者側の自殺によるものかと疑われていたが、蓮見探偵事務所の蓮見加代子(瀧本美織)と富士坂警察署の宮本俊一(水上剣星)との連携によって、断じて被害者の自殺ではなく、容疑者も真の加害者ではなく、真の加害者側の酒気を帯びた運転による悪質な事故であり、しかも真の加害者が容疑者を脅迫して犯人として自首することを押し付けた非道の事件でもあったことが明らかにされた。しかも被害者が事故から回避し切れない程に道を急いで夢中で夜道を走っていた裏面には、被害者が偶々知った幼女をその父親からの虐待から救出したくて、そのための重要な証拠を掴んで、児童相談所へ一刻も早く駆け込もうとしていたという事情もあったことまでも、両名の連携によって明らかにされた。
蓮見探偵事務所の蓮見家に親しく接して常に味方として振る舞ってきた富士坂警察署の藤永環(渡辺哲)が何となく妙な言動を見せ始めた中、宮本俊一が蓮見加代子に協力するようになったのは、前回の事件で連携できた結果と見られるが、もともと正義に燃える熱血漢だからでもあることも、今回の話は感じさせた。
このことは今後の物語の展開にも大きな意味を持つかもしれない。
なぜなら藤永環は「パーフェクト・ブルー」事件の当事者であるのかもしれないからだ。この老刑事がこの事件の真相究明を諦めてはいないようであると蓮見杏子(財前直見)が述べたとき、蓮見探偵事務所の君塚奈々(平山あや)とBAR「ラ・シーナ」店主の椎名悠介(寺脇康文)が妙な表情をしたからだ。そして君塚奈々が事件の中枢に関与しているだろうことは既に疑いようもない。
他方、事件について何か知っている様子だったTBSプロデューサーの鹿沼暁(吉家章人)は殺害されたが、自殺として処理された。殺害したのは君塚奈々か否か。
さて、ここからが本題。
主人公の通っているBAR「ラ・シーナ」の若い店員、諸岡進也(中川大志)の今週の出番は二度。一度目は番組開始から十七分ばかり経過した辺に始まる約一分間。二度目は四十七分半ばかり経過した辺に始まる約二十秒間。
一度目の出番では彼はラ・シーナ店内で働いていた。カウンター内の流し台で、背を丸めるような姿勢で、レモンか何かを丁寧に輪切にしていた。その姿は、天井の位置から俯瞰したような映像で捉えられた。今回は黒い服を着ていた。
ここで重要な描写があった。自殺と見られていた交通事故をめぐる今回の調査依頼について、蓮見加代子は自身の父親の死の謎を重ね合わせて、死者の遺族への想いを明らかにしたいと望んでいるのではないか?という考えを蓮見杏子が述べたとき、それを聴いていた進也はレモンか何かを切る手を休めて「加代ちゃんのお父さんて自殺だったの?」と訊ね、杏子は肯いたが、遺族である蓮見家の三人は自殺ではない可能性を考えていることをも明かして、さらに富士坂警察署の藤永環も同じであるようだと付け加えた。それを聴いて君塚奈々と椎名悠介が妙な表情をしていたことについては先述の通りだが、この表情は「パーフェクト・ブルー」事件の謎の行方を予感させる。それを引き出す原因を作った進也の言動の意味は大きい。
この重い言を受けて会話が止んだとき、進也は再び背を丸めて、レモンか何かを切る作業を再開していた。
二度目の出番では進也はカウンターの客席側に座して、林檎を食べながらノート型パソコンを見ていた。開店前の一時か、それとも閉店後か。
パソコンで進也が見ていたのは、今回の事件で容疑者に仕立てられた中山雄一鶴見辰吾)の長男、中山康夫(大和田健介)がインターネット上のブログに公開していた日記。そこに記録されていた遠出の事実が中山父子のアリバイを証明し、父子の隠していたはずの真相の究明に繋がった。そのことの孕んでいる矛盾について進也は「マスター。この大学生、なんでブログの書き込み消さなかったんだろう?シッポ捕まえられるかもしれなかったのに」と訊ねた。
これに対して椎名悠介は、中山康夫も自身の就職を取り消されないために父が犯罪者に仕立てられることを甘受したわけでもなく、アリバイを主張できるように、逃げ道を確保しておいたのではないか?と述べた。なるほど、だが、これは結局は最悪の事態に備えただけの話だろう。最悪の事態に至らない限り、汚名を甘受する意だったことは間違いない。だから蓮見探偵事務所と富士坂警察署の連携で真相が暴露され、父の無実が証明されたとき、中山康夫は内心は穏やかではなかった疑いがある。真犯人が逮捕されても彼の就職が取り消されることはなく、父子ともに無傷であると確認できて漸く、彼も心から安堵できたということではないのか。