ぴんとこな第十話=最終回

木曜ドラマ9ぴんとこな」。第十話=最終回。
歌舞伎の名門「木嶋屋」御曹司の河村恭之助(玉森裕太)と一緒にいるときには「轟屋」門人の澤山一弥(中山優馬)を想い、澤山一弥と一緒にいるときには河村恭之助を想う。千葉あやめ(川島海荷)の斯かる精神は、「好きな男の腕の中でも違う男の夢を見る」と形容されるほかない。結局、千葉あやめは十年間も想い合い続けてきた澤山一弥への愛を失って、今や河村恭之助をこそ愛していると自覚するに至ったようだが、それで河村恭之助と一緒の生活を再開しようものなら、今度は澤山一弥を想い始めるかもしれないではないか。
先週も書いた如く、率直に云って主要な人物の造形に完全に失敗しているとしか思えない。人物よりも場面を優先させるから、ドラマの体をなさないのだろう。
この、同時に複数の男を愛欲し手玉に取る淫らな女の恋物語の合間には、この女をめぐる恋敵でもあった河村恭之助と澤山一弥との間の、敬意と信頼に満ちたライヴァル関係も一応は表された。澤山一弥は河村恭之助を「唯一認める人」と云い、河村恭之助は澤山一弥を「相棒」と呼んだ。これは歌舞伎の舞台上で表現されるべきだったに相違ない。そのようにしてこそ物語は面白くあり得たろう。
河村恭之助を「恭ちゃん」と呼んでいて、杏星学園高等学校におけるその一番の理解者であり親友であると自負している坂本春彦(ルイス・ジェシー改めジェシー)の今回の出番は、番組開始から十五分間程を経た辺に一度だけ。朝、二人並んで登校する途上、坂本春彦は「恭ちゃん」から近況を聞き、からかいつつ慰め、励ましたが、友からは何の反応も得ることを得ないでいたのは寂しげに見えた。坂本春彦は常に「恭ちゃん」に顔を向け、顔を見詰めて話しかけていたが、「恭ちゃん」は千葉あやめと澤山一弥の関係について頭を悩ましていて、坂本春彦を見詰め返す程の余裕はなかったと思しい。とはいえ、千葉あやめをデートに誘ってみろ!という坂本春彦の助言は、河村恭之助を動かしたらしい。実際にデートに誘おうとしたからだ。
澤山一弥は「轟屋」澤山咲五郎(榎木孝明)の令嬢の澤山優奈(吉倉あおい)に悔しい思いをさせたことから澤山咲五郎の怒りを買い、ついに破門されたが、澤山咲五郎は破門したことを後悔していた上、澤山優奈もそれを望んでいなかったことから、父子の協議の末、澤山一弥は一からやり直すことを条件に「轟屋」に復帰。こうして要約してみると却って何のことか解らなくなる話。澤山一弥と同じく「轟屋」の弟子の一人である澤山梢平(松村北斗)は澤山一弥の復帰を悔しがっているのか、それとも面白がっているのか今一つ判然としなかった。