仮面ライダー鎧武第六話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第六話「ドリアンライダー、参戦!」。
ダンス合戦におけるバロン連合軍の核をなしていたレイドワイルドの初瀬亮二(白又敦)、インヴィットの城乃内秀保(松田凌)がそれぞれ松ボックリとドングリのロックシードを用いてアーマードライダーに変身した。驚くべきことに初瀬亮二は、自ら「黒影」と名乗ったあと、何と名乗ろうか全く考えてもいなかった城乃内秀保を勝手に「グリドン」と命名してしまった。ドングリだからグリドン。しかも自分自身は黒影で、仲間はグリドン。非道い命名で、勝手に命名された方は泣きたくなるだろうが、この余りにも間抜けな名前は、アーマードライダー鎧武=葛葉紘汰(佐野岳)からもアーマードライダー龍玄=呉島光実(高杉真宙)からも、ダンス集団「鎧武」のチャッキー(香音)やリカ(美菜)やラット(小澤廉)からも笑われていた。
普段は策士を気取る城乃内秀保に振り回されて利用されているだけのようにも見えていた初瀬亮二は、実は何一つ策を練るまでもなく自ずから、城乃内秀保を手玉に取り得るだけの器量の持主であるのかもしれない。そのことは後半に至ってさらに明らかになった。城乃内秀保が二人で「チームワーク」を固める必要を説いたのを受けて、河原の橋の下の予行演習の場で、初瀬亮二はグリドンを盾にして黒影が敵を攻撃する作戦を提案した。しかもその場に出現した新たなアーマードライダーを相手に、早速その作戦を実行してみたのだ。
新たなアーマードライダーの正体は、沢芽市内のみならず県内でも一番の美味を供すると評される大人気の高級ケーキ店シャルモンの店長、鳳蓮・ピエール・アルフォンゾ(吉田メタル)。本名は鳳蓮厳之介。店長と呼ばれるのを嫌ってパティシエと呼ばせる。フランスで十年間も菓子職人の修業を重ね、高く評価され、名を挙げて帰国した一流のパティシエであることを除けば、単なる体の大きなオネエ系のハゲのオジサンに過ぎない…と思わせておいて、実はそうではなかった。フランス国籍を得るために軍隊に入り、戦場で数々の軍功を立てたらしいのだ。フランスへ渡ったのは十五年前で、パティシエ修業期間が十年間であるから、兵役の期間も数年間に及んだと想像される。パティスリーは総合芸術であると宣言し、客を魅了するための戦場であると説く。人は「本物の戦場」を知らなければならないと標榜する。彼がインベスゲームに参戦することを決めたのは、沢芽市内のビートライダーズと呼ばれる若者たちが繰り広げるインベスゲームを「茶番」「偽物」「紛い物」と見たからだった。
鳳蓮・ピエール・アルフォンゾが戦極ドライバーとドリアンのロックシードを入手したのは、シャルモン店内で暴れていたダンス集団「レッドホット」の曽野村(北代高士)から取り上げたからだった。想像するに、この時点で鳳蓮・ピエール・アルフォンゾは「ベルト」の意味もインベスゲームの存在も知らなかったのではないだろうか。それにもかかわらず代金の代わりにベルトを取り上げたのは、戦場で鍛えた彼の驚異の腕力で打ちのめされて店を追い出された曽野村が反撃のためにベルトを用いようとしたのを見て、瞬時に、ベルトには何か特別な力がありそうであると鑑定したからだろう。
詳細を知らないままベルトと錠前を入手した彼は、その夜、情報を収集した結果、それらがビートライダーズのインベスゲームの道具であることを知ったのと同時に、現状のインベスゲームが、「本物の戦場」を出来する恐ろしい力を秘めているにもかかわらず未だ「本物の戦場」を現してはいないことを見抜いたに相違ない。
ここには重要な意味がありそうだ。なぜなら第四話において葛葉紘汰がアーマードライダー斬月=呉島貴虎(久保田悠来)から突き付けられたのは、まさしく「本物の戦場」の恐怖に他ならなかったからだ。
ところで、レッドホットの曽野村が戦極ドライバーとロックシードを入手したのは、バロン連合軍から脱退したからだった。一時はビートライダーズの大半を制圧するかと見えていたバロン連合軍は、レイドワイルドとインヴィットの造反を機に一気に崩壊した。黒影とグリドンがバロンを倒し、鎧武と龍玄が黒影とグリドンを倒したことで、鎧武がバロンに追い付いて同着一位を占め、レイドワイルドとインヴィットが三位を占めてバロンを追う格好になった。バロン連合軍に隷従する利益はどこにもなくなったと判断するのが当然だろう。それでレッドホットもバロン連合軍を離脱し、新たに強いロックシードを入手するため錠前ディーラーのシド(浪岡一喜)に交渉したところ、シドからはバロン連合軍を離脱した祝いとして戦極ドライバーをも譲られたのだ。
戦極ドライバーの所有者の選定についてシドには大した考えはなかったらしいと判明する。今回のシドの判断の根拠は、バロン連合軍の離脱者をアーマードライダーにしてしまえば、インベスゲームの冷戦体制が崩壊して戦乱が激化し、面白い展開が見られるだろう…という一点に尽きるからだ。
ともかくも、黒影=初瀬亮二とグリドン=城乃内秀保が敗北を重ねながらも今朝の話を大いに動かした中で、彼等に翻弄されたのがバロンの首領、アーマードライダーバロン=駆紋戒斗(小林豊)。覇権が早くも危うくなり、子分のザック(松田岳)とペコ(百瀬朔)も流石に途方に暮れた様子だったが、同時に駆紋戒斗には何か策がありそうであると期待しているようでもあった。そして駆紋戒斗の手品は見事だった。
もっと深刻な事態を迎えているのかもしれないのは呉島貴虎。彼のカバンの中に戦極ドライバーが一個、ロックシードが二個あるのを偶々発見した弟の呉島光実が、ロックシードを一つ盗み取ってしまったのだ。
葛葉紘汰が鳳蓮・ピエール・アルフォンゾから「ダサ男くん」と呼ばれてしまったことも、忘れない内に記しておく。