海の上の診療所第八話-三崎昇の人柄

月九ドラマ「海の上の診療所」。第八話。
美しい瀬戸内海の島々をめぐり、無医の集落に年に一度の医療を施している瀬戸内海翔洋病院の診療船「海診丸」で看護師をつとめる三崎昇(福士蒼汰)は、同じく看護師をつとめる戸神眞子(武井咲)に片想い。
しかるに彼は、風邪で寝込んでしまった戸神眞子の看病を引き受けた医師の瀬崎航太(松田翔太)が自身の顔をこの患者の顔に近付けていたときの後姿を見て、キスをしているかと勘違いしてしまった。そして二人が密かに交際していたと確信した。見てはならない場面(…と三崎昇が思い込んでしまったその場面)を目撃した瞬間の彼の、腰を抜かしたような驚き方、そしてそのあとの落ち込み方は、彼の想いの深さと純粋な性格をよく表していたろう。
これに劣らず印象深かった場面は、学生時代の彼と両想いだったにもかかわらず交際するには至らなかった白井亜希(佐々木希)と久し振りに再会して懐かしんだのも束の間、多額の金銭を直ぐにも準備しなければならなくて困っているとの相談を受けた彼が、船内の自室で、財布から金を全て取り出し、箱に保管していた過去の給与袋の中身や預金通帳までも取り出して、有り金をかき集めていたところ。その姿は、哀しい程に健気だった。
同時に、ここでの描写は、彼が金銭には無頓着でありながら、無欲であることで財をそれなりに貯えてもいたことを物語る。なにしろ貴重品を入れたブリキの箱や机の抽斗の中に、金銭を入れた給与袋や封筒が幾つか、さらには封筒にも入れていない裸の紙幣までも、殆ど無造作に収めてあったのだ。
白井亜希は三崎昇に嘘をついていただけではなく妹の白井美和(吉田里琴)にまでも嘘をついて三崎昇を完全に騙した格好になってしまっていたが、金銭に困っていたのは事実であるし、誰にも相談できなくて、心優しい三崎昇を頼るしかなかったのが真相だった。彼自身もそのように察したのだろう。島で小さな書店を営んでいる白井亜希から借りていた書籍を返却するとき、瀬崎航太を通じて既に返却されていた自身の全財産をその書籍に挟んで、あらためて捧げた。
繊細で弱々しくとも実は健気で高潔な三崎昇の人柄を、彼の尊敬する「コータ先生」がどこまでも理解していたのは、三崎昇と彼に感情移入する視聴者にとっては何よりの救済だった。嘘なんか云わなくとも、本当のことを云って相談しただけでも、三崎昇は必ずや同じように尽くしたはずであり、三崎昇はそのような人物である…という瀬崎航太の言葉は、他のどんな叱責や報復よりも鋭く、重く、厳しく、白井亜希に反省を促したに相違ない。三崎昇がこれを知ったなら幸福を噛みしめることだろう。