仮面ライダー鎧武第八話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第八話「バロンの新しき力、マンゴー!」。
新たな要素が幾つか出てきて、何れも今後へ向けた新展開であると見られた。例えば(1)アーマードライダーバロン=駆紋戒斗(小林豊)が新たな力、マンゴーアームズを獲得した。また、(2)力の強さへの彼の強烈な願望が、幼少時に直面した社会の急激な変化に起因する不幸と、それを生み出した強大な力に対する怒りに発していたと判明した。しかも(3)その怒りに関しては高司舞(志田友美)にも似た過去があり、共感し得るところがあった。
駆紋戒斗は以前ヘルヘイムの森へ迷い込んだときマンゴーのロックシードを収穫していたようだが、これまで彼がそれを用いようともしなかったのは、最初に入手したバナナのロックシードこそが最強であり、それさえあれば他は無用であると思い込んでいたからだった。それにもかかわらず彼がヘルヘイムの森で偶々収穫していたマンゴーのロックシードを誰にも譲ろうとはせず大切に私蔵していたのは、それが強そうな武器であり、ゆえに他人に譲るには惜しい財産であると直感していたからだろう。そして今まで秘蔵し続けてきたマンゴーのロックシードを試してみようと思い立ったのは、ライヴァルであるアーマードライダー鎧武=葛葉紘汰(佐野岳)がオレンジとパインという二つのロックシードを上手く使い分けているのを見て、ロックシードは局面に応じて使い分けることが大切であるらしいと学んだからだった。ここには駆紋戒斗の、頑固な性格と柔軟な性格の両面が表れていた。彼と高司舞が密かに意気投合し得たのは彼のそのような性格が信頼に値するからでもあったろう。
彼の頑固な性格を強化したのは、幼少時に抱いた怒りの激しさと強さだろう。怒りの対象は、沢芽市が田舎の冴えない地方都市だった時分の、堅実な工場を営んでいる勤勉な両親に恵まれ、ささやかながらも穏やかに幸福だった彼の日常生活を無残にも破壊し尽くした社会の急激な変革であり、変革を起こした原因が、大企業ユグドラシルの侵略だった。
フルーツパフェの店「ドルーパーズ」の店長の阪東清治郎(弓削智久)が述べた思い出話によると、最初は支社の用地を求めて沢芽市へ進出してきたユグドラシルは、やがては沢芽市内に莫大な経済発展をもたらした。この変化を歓迎し恩恵を受けた者が少なくなかったのは確かであり、実は阪東清治郎もその一人だったらしい。ユグドラシルの援助を受けて店を構えることができたらしいのだ。しかし勝ち組の発生は負け組を発生させる。駆紋戒斗の両親が営んで繁栄していた工場は、ユグドラシルの標的にされ、廃業させられた。その跡地に、あの巨大で不気味な樹木のような形のユグドラシル本社が築かれた。沢芽市内に支社を設けるはずが、いつのまにか本社を移転していたのだ。
侵略者は味方の顔をして静かに近寄り、いつしか占領してしまっていた。侵略の要は社会の流動化にあった。旧来の小さな成功者(云わば「既得権者」)を没落させ、特定の市場を独占し、影響力を拡大してきたと想像されるが、その過程では不遇の者を支援して小さな勝ち組に仕立て、支持者(例えば阪東清治郎のような)に養成してきたようであるし、わざわざ多数の支持者を育成せずとも、影響力の拡大に伴って市内の経済を制御できるようになれば、反対者なんか消えてなくなったことだろう。旧来の社会を流動化させ、構造を改めさせ、変革することによって、ユグドラシルは一個の地方都市を支配下に置いた。
駆紋戒斗はその犠牲者だったが、実は高司舞も同じだった。二人はその点で共感し得た。そして劇中では未だ明らかにはなっていないが、多分、葛葉紘汰も幾らかは彼等と近いところがあるのかもしれないのに対し、葛葉紘汰を尊敬し、高司舞に片想いを抱く呉島光実(高杉真宙)はその点では彼等と共感し得ないどころか、むしろ高司舞からは拒否されるのではないかと予想される。なぜなら彼の正体はユグドラシルの幹部の令息だからだ。
もちろん駆紋戒斗と高司舞の違いも見落とせない。駆紋戒斗は強大な力への憎しみから、もっと大きな力を獲得したいと願望するようになったが、高司舞は憎しみを超えた喜びを得たいと思うようになった。この違いがダンスとの付き合い方の違いを生んでいる。高司舞が楽しみのためにダンスをしているのに対し、駆紋戒斗は勝ち抜いて成り上がってゆくための道としてダンスとインベスゲームを見出したと見られる。
それにしても面白いのは、ユグドラシルが沢芽市を徐々に浸食して占領してしまったように、今、ユグドラシルが研究開発しているヘルヘイムの森が、ユグドラシル城下の沢芽市を徐々に浸食しつつあるらしいことだ。多数のインベスの住んでいる恐ろしいヘルヘイムの森へ通じる奇妙な時空間の裂け目が、街の至る所に人知れず発生しては消えているようだが、呉島光実が鋭く指摘したように、そこへ迷い込んで帰還できなくなってしまう人々がいるとすれば、同じように、そこから迷い出てくるインベスもいるのかもしれない。インベスの集団が人々を襲う事態は容易に予想される。さらに想像を逞しくするなら、本来なかったはずの時空間の裂け目が発生し始めているということは、裂け目が多くなって大きくなって、世界を呑み込んでしまう事態もあり得なくはないということではないのか。余所の土地から来た大企業ユグドラシルが沢芽市を呑み込んだように、異世界がこの世界を呑み込んでしまう恐れがあるのだ。