弱くても勝てます第五話

土曜ドラマ「弱くても勝てます」第五話。
小田原城徳高等学校野球部の監督、田茂青志(二宮和也)が「弱いままで勝つ」ための戦略を打ち出したのは前回の話の最後。今回の話では実践を始め、実験して可能性を観測すべく、武宮高等学校野球部との練習試合に臨んだ。
しかるに同校が小田原城徳高等学校野球部との練習試合を引き受けた背後には、赤岩公康(福士蒼汰)の父である大富豪の、赤岩晴敏(光石研)の子供染みた一時の悪意があった。己からの経済上の支援を拒絶した小田原城徳高等学校野球部を痛い目に遭わせるべく、予て己から経済上の支援を受けてきた武宮高等学校野球部を利用したのだ。赤岩晴敏の意向に従った武宮高等学校野球部側の卑怯な戦略に翻弄された小田原城徳高等学校野球部は、彼等自身に戦略上の迷いが残っていたこともあって、惨敗を喫した。
そして今回の話における一番の見所は、惨敗のあとの反省会の場面に来た。
赤岩公康の幼馴染でもある野球部のマネイジャー、樽見柚子(有村架純)の、母の樽見楓(薬師丸ひろ子)が営んでいる広々とした料理店「サザンウィンド」で開かれた夕食会には、本当は祝勝会になるかもしれないと期待されていたため祝賀ケーキまでも用意されていたが、反省会に転じたその会において田茂青志は皆に反省を促す大演説を繰り広げた。それには傾聴に値する内容があった。
「三回までは素晴らしかったんだ。あれこそ俺たちが目指していた“どさくさ野球”だ。じゃあ、何でそれが続かなかったと思う?プライドの欠如だよ。俺たちがどんなスタイルで、どんな野球をやりたいのか?という考え方に対する自信だ。それがプライドなんだよ。だって、プライドなくて守備が捨てられるか?一回で十点目指せるか?弱いから強くなるんじゃないんだよ。弱いまんまで勝つんだ。そうやってみんなで、勇気を出して決めた方法じゃないか。勝ったからプライドを持てるんじゃないんだよ。そんなもん、次、負けたら簡単に崩れ去る。いいか?初めからプライドを持ってる奴だけが勝てるんだよ。だから俺は、おまえたちに、弱い気持ちで持つんじゃなくて強い気持ちでプライドを持ってもらいたい。」
この演説の真理性は、例えば、四国の片隅の、政令指定都市にもなれないような一県庁所在地が、東京都内や政令指定都市と同じような戦い方で挑んで勝ち続けることができるのか?という問題を考えれば一目瞭然だろう。弱くても勝つということは、弱いままで勝つということでしかあり得ない。
野球部員たちがそれぞれ抱える問題の中で最も重要な位置に設定されているのは、やはり樽見柚子をめぐる赤岩公康と白尾剛(中島裕翔)の間の譲り合いと競い合いの矛盾と友情の物語であるに相違ないし、亀沢俊一(本郷奏多)の貧困の物語は第三話で一つの解決を見たにもかかわらず今回から次回にかけてさらに大きく動いてゆくようだが、最も魅力ある描写を得たのはむしろ、江波戸光輝(山崎賢人)と岡留圭(間宮祥太朗)との間の信頼の深化の物語であるように見える。
野球部キャプテンの江波戸光輝が常に岡留圭に怯えているのは、中学生だったとき岡留圭に苛められていたからだが、今回、陸上部から野球部へ転じた岡留圭が陸上部員にからかわれていた場面があったことで、岡留圭の別の側面が窺えた。陸上部における彼は決して強気に振る舞える立場にはなかったらしい。かつて彼によって江波戸光輝が抱いた苦しみを、陸上部で彼も味わったのかもしれない。その上で今の彼は江波戸光輝に対して、徒に力を振るうのではなく力で守る男、云わば本当の意味で強い男でありたいと願望するようになっていた。このことを知ったのは牛丸夏彦(柳俊太郎)であって江波戸光輝ではないが、今回の練習試合は岡留圭のこの思いの表明の場にもなった。江波戸光輝と岡留圭の関係がエロティクにさえも見えるのは、いかにも強そうな顔立ちの間宮祥太朗と、気の弱そうな柔らかな顔立ちの山崎賢人との対比が成功しているからだろう。