ブラックプレジデント第六話

関西テレビブラック・プレジデント」第六話。
ブラック企業のブラック経営者…と云われている「トレスフィールズインターナショナル」の筆頭株主であり社長でもある三田村幸雄(沢村一樹)の真の感情、真の思いが、何時になく味わい深く描かれた。それも二つの場面にわたって。一つ目の段階では深められ、二つ目の段階で高められた。
企業家として既に名声を得ている彼は、気紛れによるものか、少年時代の淡い思い出のある城東大学へ社会人入学をしたが、少なくとも当初は城東大学とその学生を馬鹿にしてもいた。ここの卒業生を自身の会社に雇用することなんかないとまで断言していた。大企業の社長は皆そのように思うらしく、この日の夜、大勢の財界人が集合した華やかな酒宴の席でも、彼と談笑していた富裕の人々は皆、彼がどのような意図で城東大学へ入学したのかについて疑問を呈しつつ、城東大学を馬鹿にして、さらには今時の学生、今時の若者を笑いものにした。
恐らく今年三月以前の彼であれば、この会話に何の違和感も抱かず、一緒になって今時の若者を嘲っていたのだろう。ところが、今はそうではない。彼は今時の若者の現実を見てしまった。何事にも経験は乏しく金銭の面ではさらに貧しくとも、色々夢見ながら考え、勉強し、工夫し、働いて、そして悩みながらも楽しんでいる姿を。他の社長連中が、現実の若者がどのように生きているのかも知らないまま若者を馬鹿にして笑い合っていた間、この連中の仲間であるはずの三田村幸雄だけは、城東大学の若者、特に映画サークル「アルゴノーツ」の、不況と生活苦をも楽しもうとしている若者の姿を脳裏に浮かべていた。一体、三田村幸雄の仲間は何れであるのか。
華やかな酒宴の席に何時になく違和感を抱いた彼は、何時になく途中で退席してしまった。持参してきていた百万円の高級ワインを取り戻して。しかし彼が大切な酒宴を途中退席するのは今までになかった出来事で、腹心の明智志郎(永井大)は驚いて社長秘書の冴島真理(国仲涼子)にそのことを伝えた。偶々このとき城東大学講師の秋山杏子(黒木メイサ)が冴島真理と一緒にいたことで異変を知ったことが、二つ目の段階を生み出した。
映画サークル「アルゴノーツ」の部室で貧乏な酒宴を楽しんでいた面々は、秋山杏子から三田村幸雄と一緒に合流する由の連絡を受けて鬱陶しがっていた。当然だろう。しかるに、三田村幸雄の孤独と不器用について冴島真理から聞かされていた岡島百合(門脇麦)は、この日が三田村幸雄の誕生日であることを明かし、彼等はケーキを調達することにした。ケーキを運んでいた岡島百合が転倒したせいでケーキは無残な姿になっていたが、「仲間」である三田村幸雄を皆が祝福した。能天気な部長の工藤亮介(永瀬匡)は無論のこと、最も神経質な副部長の前川健太(高田翔)までも、無愛想な口調で祝福した。三田村幸雄は誰か大切な人と一緒に飲みたいと思っていた百万円の高級ワインを皆と一緒に飲みたいと思い、皆のために開けた。この貧しい酒宴には百万円を超える価値があると確信したからだった。
今までのこの物語の流れからは少々異質でさえあるにもかかわらず、間違いなく今までの物語からの必然であるこの二つの場面には、意外にも、落涙しそうになる程の温かさがあった。
ところで、前川健太の肉体労働の場面も面白かった。彼の片想いの相手である岡島百合がアパートの契約更新料として十万円を支払わなければならなくなったものの、そんな大金をどうやって調達しようか悩んでいたとき、彼は岡島百合に十万円を貸してあげたいと考え、そのための金を得るため工事現場で働き始めた。工藤亮介や太田信也(菅裕輔)にも手伝わせていたが、何れも納得して働いていた。彼等には意外に団結力があったのだ。三人とも体力が足りなくて重労働に耐えられない様子だったが、それでも粘り強く労働を続けていたのだろうか。肉体労働には縁のなさそうな前川健太が敢えて工事現場で働くことを決意したのは、岡島真理を助けたいという思いとともに、三田村幸雄には負けたくないという思いもあったからで、この情熱と闘志だけ見ても、前川健太と彼の仲間には実は気力も行動力もあると判る。