仮面ライダー鎧武第三十二話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第三十二話「最強の力!極アームズ!」。
このところ急展開が続いてきたが、今回のはその極みだったと云うも過言ではない。
先ずは(一)、鎧武=葛葉紘汰(佐野岳)がDJサガラ(山口智充)によって最大の苦難を伴う選択肢と、そのための最強の力を与えられた。最大の苦難を伴う選択肢とは、世界を救うためには自ら世界を支配し得るオーバーロードになるしかないということであり、そのための最強の力とは、前回、DJサガラの要請に応じてヘルヘイムの森のオーバーロードの王、ロシュオ(声:中田譲治)が「知恵の実」(「禁断の果実」)から作り出した新たなロックシードによって得られる新たな力、「極アームズ」に他ならない。
他方(二)、バロン=駆紋戒斗(小林豊)は最悪の事態を前に、今までの一匹狼の路線を捨てて、大将のような指揮能力を発揮し始め、(三)それに呼応してナックル=ザック(松田岳)のみならずマリカ=湊耀子(佃井皆美)も、グリドン=城乃内秀保(松田凌)も、さらにはブラーボ=鳳蓮・ピエール・アルフォンゾ(吉田メタル)までも馳せ参じて新たな軍勢を形成した。
対するにヘルヘイムの森のオーバーロード陣営では(四)、白い身体を持つオーバーロードの王、ロシュオへの謀反を企てる緑色のオーバーロード、レデュエ(声:津田健次郎)が、陰謀家の龍玄=呉島光実(高杉真宙)を伴って人類の世界への侵攻を企て、ユドラシル・タワー内に安置された御神木に潜在するクラックの在り処をヘルヘイムの森の側から突き止め、そこを突き抜けてクラックを開き、インベスを率いて入城し、ヘルヘイムの森の植物の繁殖によってユグドラシル・タワーを占拠し、ヘルヘイムの森の植物で浸食し尽くして巨大な森と化し、やがては沢芽市を侵略し始めた。
これが(五)ユグドラシルに大打撃を与えたのは云うまでもない。これに先立って既に沢芽市内で暴れ回っていた赤いオーバーロード、デエムシュ(声:杉田智和)に対処すべく、もはや姑息な隠蔽工作を続ける余裕もなくなり、形振り構わず防衛に邁進せざるを得なくなったユグドラシルの警備隊、所謂「黒影トルーパー」等の派手な戦闘行動は、沢芽市民の間にも漸くユグドラシルへの不信感を惹起しないわけがなかったが、そこへレデュエの侵略が加わってユグドラシル・タワーが機能不全に陥り、研究者集団は無論のこと警備隊も壊滅。事態が深刻であることを知った「プロフェッサー凌馬」こと戦極凌馬(青木玄徳)は、卑怯にも、一人だけロケットに乗って沢芽市から脱出した。
こうした中で唯一の救いは(六)、最強の力、「極アームズ」を得た葛葉紘汰が、その脅威の威力で凶暴なデエムシュを打倒したことだった。そして(七)、今なおヘルヘイムの森でロシュオの許に居候し続ける呉島貴虎(久保田悠来)は、かつて配下の者だったシド(浪岡一喜)の無残な最期を目撃した上に、レデュエが人間世界への侵攻を開始するらしいことをも知らされながら、どうすることもできないでいた。
今回の話でも重要な新事実が幾つか明らかになった。
ヘルヘイムの森の侵略から街と人々を救い、延いては世界を救いたいと願望する葛葉紘汰に対して、かつてDJサガラは、森の侵略を食い止める力を持つのはオーバーロードだけであると教えてくれた。これを受けて葛葉紘汰は、オーバーロードと話し合い、協力を得たいと考えて今まで活動してきたが、オーバーロード側は人間の話に聞く耳なんか持ち合わせていないばかりか、人間を滅ぼして己の強さに酔い痴れることにしか興味がないらしいと判明し、協力を得るどころか話し合うことさえ到底できそうもないと痛感させられていた。
だから彼は、DJサガラには騙され、からかわれたと感じていたが、実のところ、DJサガラが云いたかったのは、森の侵略を止める力を持つのはオーバーロードだけである以上、森の侵略を止めたければ葛葉紘汰自身がオーバーロードになるしかないのであるということに他ならなかった。
しかるに、オーバーロードになるためには「黄金の果実」、「知恵の実」を獲得しなければならない。獲得するためには、同じく獲得しようとしている他の者を全て倒されなければならない。競合する者を全て倒して唯一の勝者となった暁に、「黄金の果実」を得て、世界の唯一の支配者となることができる。そのとき唯一の支配者は世界を守ることも滅ぼすことも意の如くにできる。葛葉紘汰は世界を救うためには唯一の勝者にならなければならないが、そうなったとき、本当に世界を救うかどうかは、彼自身に係っている…というのが、DJサガラの助言であり、謎めいた警告でもあった。
だが、オーバーロードがインベスをも凌ぐ恐ろしい怪物であると見える以上、オーバーロードになるという選択肢は何か途轍もなく恐ろしい話であるとしか思えない。少なくとも高司舞(志田友美)はそう感じ、葛葉紘汰に対するDJサガラのこの助言を、恐ろしい罠であると思った。
これに対してDJサガラは、確かに自身は決して親切心から葛葉紘汰に話を持ち掛けているのではなく、あくまでも己の「都合」で動いているだけであると明かした。今までDJサガラは葛葉紘汰の味方であるかのようにも見えていたし、葛葉紘汰自身もそう思い込んでいたが、実際には決してそういうわけではなく、DJサガラの教えに従って重大な選択肢を採ってしまえば、いつかはとんでもない結末を迎えることになるかもしれないことをも、DJサガラ自身がここにおいて示唆したと見ることもできる。もっとも、ことによるとそれは一つの「親切」であるのかもしれない。
そもそもオーバーロードとは何か?ということについては、レデュエが呉島光実に明かした話が興味深い材料を提供してくれた。
レデュエやデエムシュ のようなロシュオ配下のオーバーロードは、ロシュオによって改造されて現在の姿になったらしいのだ。それは人類ならぬフェムシンム類の本来の姿からは隔絶した姿であるのかもしれない。改造の目的はもちろんヘルヘイムの森の浸食に打ち克つためであり、人類がロックシードを用いてアーマードライダーに変身することの目的に等しい。しかし換言すれば、人類が高度な文明の力によってヘルヘイムの森から身を守るための武器を開発したのに対し、フェムシンム類は身体そのものを改造させることでしか森に対抗できなかったということでもある。
武器を開発し得る高度な文明を持たないフェムシンム類が身体を改造する高度な能力を獲得し得たのは、「黄金の果実」、「知恵の実」を獲得したからであるとしか云いようがない。「知恵の実」を獲得してオーバーロードの王となったロシュオは、その力によって己の配下の者どもをも似たような存在へ改造したのだろう。そうであれば、真のオーバーロードはロシュオだけであると見るべきだろうか。
ロシュオによる改造が、ユグドラシルのアーマードライダーに極めて似ていることも明白だろう。そのことは今回のデエムシュの行動によって証明された。デエムシュはユグドラシル・タワーの地下道へ潜入した際、そこの一部にヘルヘイムの森の植物が繁殖しているのを発見するや、ヘルヘイムの森の果実をそこから採って摂取し、己を強化してみせた。本来、ヘルヘイムの果実をそのまま摂取した生物は皆、インベスに化けてしまい、知性も記憶も喪失してしまうが、ロシュオによる改造を受けた者は、インベスに転落することなく安全にヘルヘイムの果実の栄養を摂取して新たな力を獲得し得るようであると判明した。このことは、ヘルヘイムの果実をロックシードに転換してその栄養を安全に摂取し、アーマードライダーに変身することを容易に連想させる。