ごくせん第三話

日本テレビ系ドラマ「ごくせん」第三話。仲間由紀恵主演。
先週までの二話を通して、小田切竜(亀梨和也)・矢吹隼人(赤西仁)・土屋光(速水もこみち)・武田啓太(小池徹平)・日向浩介(小出恵介)はじめとする三年D組の生徒たちと教師ヤンクミ(仲間由紀恵)との間には既に信頼関係が築かれた。こうして物語の基本的な設定は上手い具合に完了し、今週からはさらに詳細な描写が見られるようになった。
例えば今宵の話の冒頭、土屋と日向の二人が無実の罪で警察に捕まったとき、ヤンクミに助けを求め電話をかけたのは武田だったが、これは既に先週までに確立した役割だと云える。また何かと熱くなりがちなヤンクミに対し冷静にツッコミを入れるのは主に小田切の役割だろうか。ヤンクミの尽力で二人は無事に釈放され、これを喜んだヤンクミが小田切・矢吹・土屋・武田・日向を伴い、かつての教え子クマ(脇知弘)の経営する「熊井ラーメン」に行き六人揃って叉焼麺を食っていた場面、矢吹はヤンクミへの感謝の意を一枚の叉焼に込めてヤンクミの丼に入れ、日向・土屋・武田もあとに従った。このとき、一人だけ従わずに黙々と食おうとしていた小田切も他の四人の視線に急かされて同じく叉焼をヤンクミに捧げた。ここでは矢吹の行動に直ぐに従う日向・土屋・武田との対比で、それには直ぐには従わない小田切の冷静な落ち着いた姿勢が目立つが、同時に矢吹の行為に彼の愛嬌が表れていることも見落せない。そして矢吹の役割が自らの思いを率先して表現して皆を盛り上げることにあることもここで判るのだ。
その翌朝の騒動のあと。小田切と矢吹が暴力沙汰を引き起こしたとの疑惑についてヤンクミが両名に問い質し無実を確認した場面。疑惑それ自体の矛盾を指摘したのは小田切で、ここでもやはり彼はツッコミ役だった。この指摘によって矛盾に気付いて安堵したヤンクミが笑ったとき、矢吹をはじめ生徒たち皆も笑い出したが、小田切だけは険しい表情のままだった。直後にヤンクミは矛盾の物語る重大な事実に気付いて皆にそれを伝え、皆がそれに驚いた中、小田切だけは表情の変化を見せなかった。彼だけは事態の深刻な意味を最初から見抜いていたのだろう。
真犯人を捕まえるため三年D組の全員で聞き込みを展開するための決起集会のとき、矢吹はアヒル型の幼児用の乗り物に跨っていた。
矢吹が「フォーメイションB」決行を告げたときの小田切の反応をどう取るのが妥当だろうか。やはり素直に、小田切がその語の意味を知らなかったことの表出として見るのがよいように思う。土屋・武田・日向の威勢のよい反応を見れば、「フォーメイションB」=「四方八方へ散り散りになって各自逃走すること」が常套手段であると判る。だが、小田切は永らく三年D組から外れていたからそれを知らなかったのではないだろうかと推察される。
最後、ヤンクミが三年D組の全員を連れて「熊井ラーメン」に行き全員に叉焼麺を御馳走した場面。矢吹は日向の丼に隙を突いて醤油を注いでいた。矢吹は悪戯児なのだ。矢吹を演じる赤西仁の愛嬌ある顔立ちには茶目気ある表情がよく似合う。なお、このときも小田切は黙々と食っていた。小田切を演じる亀梨和也には黙々と食う姿がよく似合う。
それにしても毎回このドラマには見所が多いが、今夜の第三話で云えば、小田切・矢吹の釈放の場におけるヤンクミと刑事(高杉亘)との対峙は盛大なカタルシスをもたらした。こうして不図気付いてみれば今期テレヴィドラマ諸作品中の最高傑作は結局「ごくせん」に落ち着くということなのか。