Mの悲劇

TBS日曜劇場「Mの悲劇」。山室大輔演出。橋本裕志脚本。稲垣吾郎主演。第五話。
ここに来て風向きは変わりつつあるようだ。石橋を叩いて渡る用心深い小心者の安藤衛(稲垣吾郎)を立て続けに襲う悲劇の数々がどうやら全て正体不明のストーカー相原美沙(長谷川京子)側の謀略であるらしいことを、安藤衛の周囲の人々がようやく理解し始めたのだ。もっとも安藤衛自身は今までにも散々主張し続けてきたはずだ。安藤衛こそが被害者であって相原美沙は加害者でこそあれ断じて被害者ではないのだと。でも周囲は信じなかった。何故だろうか。警察が相原美沙ではなく安藤衛の側を疑ったからだろう。では一体、警察署の大川刑事(佐藤二朗)はどうして安藤衛ばかりを一方的に疑い続けてきたのか。もちろん相原美沙の謀略が巧みに仕組まれていたからだろうし、安藤衛の主張に裏付けがなかったからでもあるだろうが、もう一つ、安藤衛が男であるからでもあったろう。もともと「悲劇」の連続の始まりは電車内での痴漢騒動にあったからだ。何の根拠もなく変態行為の前科者に仕立て上げられた彼は、その後、何をどう主張しても信用してもらえない状況に陥ってしまった。それが相原美沙の謀略の暴走を許したのだ。
ここで注目に値するのは、下柳晃一(成宮寛貴)が安藤衛・相原美沙への認識を改めたことだ。これまで彼は、かつて恋人だった島谷有紀(岡本綾)を安藤衛に奪われた恨みと、仕事の上での安藤衛の遣り口への恨みから、安藤衛をどこまでも否定的に見て、そしてその反動で相原美沙の主張を全面的に信用し、協力してさえいた。彼は感情的に過ぎて、そして軽率だったのだ。彼は反省した。ここで再確認できるのは、相原美沙の陰謀がこうした善良でありながら軽率でもある人々の愚かな正義感を利用することで成立したらしいということだ。中西瞳(吉岡美穂)もそうした愚かな人々の一人だった。何と愚か者が多いことか。
ところで、先週発売の週刊誌「TVガイド」二月十八日号の「KAT-TUN“勝つ運”」特集(pp.7-11)において、乙女風に見えるアイドル上田竜也は「ドラマ「Mの悲劇にハマってます」「怖いけど面白くて」と述べている。なかなか趣味のよい子だ。また「「Mの悲劇」みたいなドラマにも出たい。何を考えてるかわかんないような、そんな役をやってみたいです」とも述べているが、それは成宮寛貴のことか、長谷川京子のことなのか。まさか佐藤二朗ではないだろう。