タイガー&ドラゴン

TBS系ドラマ「タイガー&ドラゴン」。宮藤官九郎脚本。長瀬智也主演。第五話「厩火事」。
ドツキ夫婦漫才コンビ「上方まるおまりも」のまりも(清水ミチコ)の嘘が実は嘘ではなかった事実は、その嘘を仕掛けたつもりだったヤクザ噺家の林屋亭小虎=山崎虎児(長瀬智也)にとっては想定の範囲外の結末だったろう。その逆転劇が悲劇性を強調した。
まるお(古田新太)とまりもに、両名にとって思い出の深い浅草の寄席で、死別の直前に夫婦愛を確認する機会を提供したのは小虎の噺であり、林屋亭どん兵衛西田敏行)が泣きながらそのことに感激し感謝したところは貰い泣きをも惹起し得る場面ではあったが、その舞台は何時もの喫茶店『よしこ』であり、従って当然、何時もの通り弟子から取立て屋への豹変があった。泣かせるかと思わせて泣かせないのがこのドラマの妙味であるのは云うまでもない。とはいえ喫茶店『よしこ』に『よしこ』ママ(松本じゅん)も常連客たちも誰もいなかったことで、この笑いの場が笑わせることで却って泣かせる場であることを、風景としても端的に表現していたと云えるかもしれない。
それにしても、蕎麦店主人の辰夫(尾美としのり)・おでん屋台の半蔵(半海一晃)・喫茶店『よしこ』ママの三人組をはじめとする寄席の客たちと小虎との連帯感は今回ますます揺るぎないものになっていた。注目に値するのは「タイガータイガーじれっタイガー」の位置だ。第三話では噺の冒頭にやったところ盛り上がる客が一人いたが、第四話では客の全員が「お約束」としてのそれを待望していた。だが、そのときにはサゲのあと拍手がなかったので慌ててそれを付け足して漸く大爆笑と喝采を浴びたという経緯があっただけに、果たしてそれが単なる「お約束」として一応待ち望まれていたに過ぎないのか、それとも「ギャグ」「持ちネタ」の類としてそれ自体が条件反射的に無意味に笑いを取ってしまう有様だったのか、実は小虎にも不安があったらしい。今宵の場合、噺の途中に唐突に無意味に「タイガータイガーじれっタイガー」を入れたところ観客は無反応だったが、小虎はその無反応の様子を見て逆に自信を深めたようだった。持ちギャグの勢いだけで笑いを取るのではなく噺によって笑いを取ることを彼は望んでいるし、客の側もあくまでも噺の妙味に期待しているのだ。彼と彼を贔屓にしている客たちとの間の寄席での関係の深まりを物語るなかなか味わい深い一瞬だった。