タイガー&ドラゴンvs空中ブランコ
TBS系ドラマ「タイガー&ドラゴン」。宮藤官九郎脚本。長瀬智也主演。第七話「猫の皿」。
よい話が随所にあったのは無論のこと。特に、ヤクザ噺家の林屋亭小虎=山崎虎児(長瀬智也)が、自分はもともと林屋亭どん兵衛(西田敏行)の谷中一家にとって赤の他人だと云ったのに対し、どん兵衛が「寂しいことを云うんじゃないよ」と泣いて怒った場面とか。おでん屋の半蔵(半海一晃)の屋台で虎児が谷中小百合(銀粉蝶)と会話していたとき、どん兵衛が愛妻を弟子に横取りされた心地で嫉妬して間に割って入った場面とか。だが、今宵一番の見所は、落語界の「改革派」高田亭馬場彦(高田文夫)の軽い口調にあったと云える。高田亭馬場彦とジャンプ亭ジャンプ=淡島ゆきお(荒川良々)の師弟コンビがそれぞれ面白い。高田文夫はもとより立川談志門下であるから納得だが、荒川良々が落語家風に見えるのは面白い。もちろん小虎ファン倶楽部状態にある蕎麦店主人の辰夫(尾美としのり)・おでん屋台の半蔵・喫茶店『よしこ』ママ(松本じゅん)の三人組は今回も絶好調。ただし「天才」といわれる谷中竜二が全然「天才」に見えないのは変わらない。
甚だ痛いことに、今宵、裏番組のフジテレビ系「金曜エンタテイメント」では特別企画として直木賞受賞作品「空中ブランコ」(奥田英朗原作)が、橋本裕志脚本、村上正典演出、阿部寛主演によりテレヴィドラマ化され、所々見ただけでも面白い番組であることが充分に伝わってきた。これと「タイガー&ドラゴン」とでは面白さの種類が違うとも云えるが、それ以上に勢いが違うのも確かだ。そして勢いの差は種類の違いを超えて伝わってくるものなのだ。
ともかく笑いどころは多かったが、精神科医の伊良部(阿部寛)が空中ブランコに成功したときの陽気な姿は傑作だった。彼の補佐役、セクシー看護師マユミ(釈由美子)との組み合わせも意外に絶妙だった。「トリック」の阿部寛と仲間由紀恵は無論のこと、「最後の弁護人」の阿部寛と須藤理彩の組み合わせも面白かったが、釈由美子も悪くはなかった。
他方で、サーカス団員の山下公平(堺雅人)や、モデルの安川広美(佐藤仁美)の、自信満々である余り己の真の姿を自覚できないでいることの悲しみの姿には、視聴者にも考えさせるだけの力があった。誰であれ、二十歳代から三十歳代への移行期、その変化を正しく認識し切れなくて痛い失敗をすることは常時あり得るものだ。
なお、「タイガー&ドラゴン」に関すること一件。糸井重里一派が異常に面白がるものは逆に面白くなく思えてくるという問題がある。宮藤官九郎脚本ドラマでは「池袋ウエストゲートパーク」も「ロケットボーイ」も「木更津キャッツアイ」も「ぼくの魔法使い」も「マンハッタンラブストーリー」も全て面白かったのに、「タイガー&ドラゴン」だけは、糸井重里一派に絶賛されている時点で三谷幸喜「新選組!」と同じ位に駄目だと思えてしまう。悔しいことだ。