菊次郎とさき

テレビ朝日系-木曜ドラマ「菊次郎とさき」。室井滋陣内孝則主演。北野武原作。輿水泰弘脚本。石橋冠演出。制作テレビ朝日5年D組。第二話。
北野菊次郎(陣内孝則)がヒノキ風呂を衝動買いしたのは、一面では明治以来の「一家の大黒柱」幻想に囚われていたからであると云えるだろう。家長としての父親がその地位に相応しい扱いを受けないのは屈辱であると彼もまた信じていたのだろうが、一般に「家」という近代的な制度は戦後には崩壊したわけだし、大体、北野家の彼は家長としての責任を果たしてはいなかったに相違ない。代わりに責任を引き受けているのは北野さき(室井滋)だろう。菊次郎は家長としての実質を持ち合わせていないのに、その形式のみを求めている。実質と形式との不調和の問題。そこに彼の悲哀がある。
北野家の長男、北野重一(賀集利樹)よりも重一の新妻、北野久美子(京野ことみ)の方が北野家に馴染み、菊次郎に親しんでいるのは面白い。でも充分あり得ることだ。久美子の性格のよさ、生まれ育ちのよさがその主な要因だろうが、もう一つ、重一が北野家の「貧乏のどん底の頃に生まれ、苦学しながら家計も助けた」長男であることも大きいだろう。北野家に対する彼の家族愛の中には、恐らくは単純に愛だけでは片付けられない複雑な思いが含まれていたに相違ない。