女王の教室最終回スペシャル

日本テレビ土曜ドラマ女王の教室」。遊川和彦脚本。大塚恭司演出。制作協力は日活撮影所。天海祐希主演。第十一話=最終回。
通常よりも三十分間延長して九十分間にも及んだ最終回=卒業式スペシャルだったが、盛り沢山で濃厚でもあった。見所は実に数多あったが、最も本質的な、最も意義深く最も価値のあったのは、問題教師の汚名を着せられ追放されて去り行こうとする阿久津真矢(天海祐希)に対し天童しおり(原沙知絵)が問いを発した場面であると思う。阿久津先生はどうしてそんなに教師という職業を愛し教育に情熱的であるのか?という天童しおりの問いに対し、真矢は「教育は奇跡を起こせるからです」と明快に答えたのだ。何と深い言葉だろうか。教育とは何か?教師とは何者であるべきか?ということを改めて考えさせ、我々皆が不覚にも忘れがちな大切なことを想起させてくれる深遠な名言ではないだろうか。
なるほど「奇跡」は起こっていた。問題教師の真矢を見事に追放してみせた政治的豪腕の上野教頭(半海一晃)は、真矢に代わり教壇に立った六年三組において、まさしく教室の「奇跡」を目の当たりにしたのだ。教室の女王、真矢の去ったあとの教室では、真矢の精神を的確に理解した六年三組の全員が、卒業と中学受験の直前の小学生として比類なく堂々模範的に行動していた。そのような驚異の奇跡的な現実を見せ付けられて心の動かない者がいるはずもないが、上野教頭は素直に己の敗北を認めるにも至った。要するに上野教頭もまた間違いなく一人の教師だったのだ。
もちろん「奇跡」は無為自然により偶々幸運に生じたわけではない。教室の女王、真矢がそれを惹き起こすまでには心身を磨滅させる程の努力が必要だった。並木平三郎(内藤剛志)が目撃した通り、真矢は今にも潰れそうな安アパートに住み、室内には教育学・心理学や各教科の指導法等に関する膨大な文献を蓄え、生徒たちに関する詳細な記録資料等を整理・保存し、要するに生徒たちの教育のこと以外には何もないような生活をしていた。そうであれば教室に「奇跡」を惹き起こすためには神田和美志田未来)の不屈の精神を目覚めさせることこそ不可欠であり、またそれが間違いなく可能であることも想定できていたろう。神田和美を奮起させ、もう一人の、真の教室の女王として育て上げることで、新藤ひかる(福田麻由子)や馬場久子(永井杏)を目覚めさせ得ることも。そして神田和美を支えるには真鍋由介(松川尚瑠輝)の明るさと愛が必要であることも。
卒業式は極めて独特だった。小学校の体育館で上野教頭の司会進行により卒業式典が執り行われていた間、真矢は一人、職員室のかつての自分の席に着いてパソコンを開いていた。机上に置いたままになっていたパソコンを取りに来るよう近藤校長(泉谷しげる)に呼び出されていたらしい。何とかして真矢にも卒業式に出席して欲しいとの近藤校長の配慮だったが、真矢は体育館に行かなかった。そして職員室で一人、パソコンに蓄積されていた六年三組の生徒たち全員の顔写真付きデータを見詰め、一人一人の名を呼んでは一人一人のデータを順番に削除していった。実に風変わりな、しかし濃厚な思いの込められた感動的な卒業式であると云わなければならない。
なお、追放される直前の真矢が生徒たちに対し訓辞を与える段、将来のことばかり心配して今やるべきことをやらないようでは意味がない!今やっておくべきことをやれ!と説教する中で触れた「云うことを聞かないと地獄に落ちるよ」と脅迫する詐欺師とは無論あの四柱推命流の女のことだろう。
この傑作ドラマを賞賛するに際しては提供者の問題を見落とすわけにはゆかない。当初の過激な展開が賛否両論を惹起したことから各企業が提供者として名乗りを上げるのを嫌った中で、最終的には明治製菓とコカコーラの二社が名乗りを上げたが、一時期は明治製菓だけだった。その見識と覚悟を讃え、最優秀スポンサー賞を明治製菓に捧げたい。