岡本優・修と八代亜紀

今朝、不図目を覚ましテレヴィを見ればNHK「生活ホットモーニング」に歌手の八代亜紀が出ていて、絵画制作への愛について語っていた。聞き手をつとめたのはNHKアナウンサーのほかフェミニン双子の岡本優と岡本修。ちなみに岡本兄弟も画家なのだ。
八代亜紀は芸能界で最も本格的な画技を身につけた人であり、他の連中が単に芸能人としての名声だけで注目されているに過ぎないのとは水準が違うが、なるほど今朝の番組における八代亜紀の芸術論には中身があった。名歌「舟歌」をソウルフルに熱唱する実力派の八代亜紀は、歌を歌うことにおいて自分は聴衆の代弁者でありたいが、絵を描くことにおいては自己というものに向き合い、自己というものを表出してゆきたいと思うと語った。確かに音楽における鑑賞の対象は表現者の行為であり、従って鑑賞者の存在がそのまま作品=活動に関与するのに対し、絵画では、公開制作や席上揮毫の類を別にすれば鑑賞の対象は基本的には表現者の行為ではなく行為の結果であり、従って鑑賞者の関与は制作の行為それ自体に限れば認められないと云えるだろう。ことに八代亜紀の場合、制作は山荘内のアトリエで行われ、技法も作風も古典的なものを志向しているのだ。そう考えてみると八代亜紀による音楽と絵画の比較の論は実に的確に両者の本質を分析したものと認められよう。なお、絵画は自己の表出であり得ると考えつつも表出それ自体を目的化するのではなく、あくまでも自然の精密な観察を基本とし、観察の対象の写実表現に徹するという姿勢は、古風ではあるが、間違いなく正しいと思う。正岡子規小山正太郎中村不折の写生論に通じる。