仮面ライダー響鬼38巻

テレビ朝日系“スーパーヒーロータイム”ドラマ「仮面ライダー響鬼」。細川茂樹主演。三十八之巻「敗れる音撃」。
冒頭の展開には驚いた。「少年」=安達明日夢栩原楽人)と桐矢京介(D-BOYS中村優一)がこんなにも生き生きと楽しく愛らしく描かれたことが今までにあったろうか。
城南高等学校、放課後の屋上。「少年」明日夢は所属する吹奏楽部の部長より戦力外を通告され落ち込んでいたが、慰めようとした持田ひとみ(森絵梨佳)の前では却って強がって、持田を誘って葛飾柴又の甘味処「たちばな」へ遊びに行った。ところが、遠くから一部始終を見ていた桐矢京介。直後、彼は凄まじい速度で自転車を走らせていた。先回りをしたかったのだ。明日夢と持田が「たちばな」に着いたときには既に桐矢が席に着いていて、早速のように攻撃的な言を次々浴びせた。店内では余裕の表情で茶を飲んでいたが、そこに至る迄は必死の形相で自転車を漕いでいたのだ。白鳥が優雅に泳ぐために水面下で必死に足を動かしているようなものだ。クールな男子を演じるためにボロボロになるまで頑張っている姿がなかなか泣かせる。或る意味これもまた「野ブタ。をプロデュース」みたいなものなのか。ともあれ桐矢のここでの攻撃に対し、明日夢は珍しく桐矢に反抗した。普段なら黙って耐えているだけなのに。云うまでもなく持田に弱みを見られたくなかったからこその奮起だ。彼の言動にも確かに計算はある。彼は神聖不可侵ではない。普通の少年なのだ。
「たちばな」入店直後の明日夢に対し桐矢は、明日夢の今回の訪問の意図が「ヒビキさんに慰めてもらうこと」にあるのを鋭く見抜き、明日夢を慌てさせた。なるほど明日夢は従来、落ち込んだときには毎回ヒビキ(細川茂樹)に相談してきたが、実は内心、相談して反省したかったのではなく単に慰めて欲しかっただけなのだろう。実際、ヒビキは大抵、明日夢に対しては殆ど全面的に肯定的だった。明らかに今回もまた明日夢は「たちばな」での全面肯定を期待していたはずだ。やはり彼の言動にも計算はある。他方、桐矢がそのことを見抜いたのは普段からの熱心な観察の賜物で、ここでもクールな仮面の奥の必死の努力という側面が見えてくる。
このように冒頭の数分間だけ見ても「少年」明日夢と桐矢それぞれの個性が実に生き生きと楽しく愛らしく立体的に描出されていたと云える。巷間よく云われる通り三十之巻以降このドラマの登場人物たちは二十九之巻以前とは比較にならない程に生動し始めているが、今朝の冒頭ではその成果を効果的に活かしていた。そういえば「HERO VISION」Vol.20で渋江譲二は「最近、台本が個々の役の面白いところがクローズアップされてきて、ここはチャンスだなって思ってる」と発言していたが(p.10)、なるほど首肯できる。
滝澤みどり(梅宮万紗子)主催による明日夢と桐矢の筑波山での合宿の夜。ヒビキも合流し、四人で楽しくバーベキューをする予定だったのだろう。桐矢が手際よく作業を進め、明日夢には厳しく指示を出して働かせながらの共同作業。このように本当は結構よいコンビなのに。
直後、その合宿所に魔化魍が出現。響鬼=ヒビキは苦戦を強いられ、明日夢はそれを見て心を痛めたが、そこに童子(村田充)と姫(芦名星)が現れて明日夢と桐矢にも襲い掛かろうとするや、明日夢は横で震え上がっていた桐矢を急かすようにして先に逃れさせた。明日夢が既に非常事態には強くなっているのは三十之巻でも描かれていた。他方、ここで桐矢が怯えて震えながら明日夢を見たところも断じて見落とせない。実は桐矢もあの局面では明日夢を頼りにしていたのではないのか。多分そうなのだ。桐矢は本当のところは自分よりも明日夢の方が鬼に向いているのかもしれないことを既に知っているのだろう。