わたしたちの教科書第八話

フジテレビ系。ドラマ「わたしたちの教科書」。第八話。
脚本:坂元裕二。音楽:岩代太郎。主題歌:BONNIE PINK「Water Me」(ワーナーミュージックジャパン)。プロデューサー:鈴木吉弘&菊地裕幸。制作:フジテレビドラマ制作センター。演出:葉山浩樹。
弁護士の瀬里直之(谷原章介)が勝利を確信し得た理由が明らかになった。元教諭の三澤亜紀子(市川実和子)は生徒への指導力においても公務員としての事務処理能力においても、さらに社会人としても大変な問題児だったという事実があるのだ。それを暴露することで、積木珠子(菅野美穂)に有利な証言の全てを容易に切り崩し得ると判断したわけなのだろう。一般に、学校教師の中に社会人として不適格の者が少なくないというのは今や社会問題と化しているが、雨木副校長&瀬里の陣営は、積木側の証人をそうした問題教師として批判することで社会的な信用性を失わせる戦略に出たのだ。それに先立つ場面でも瀬里の戦いは鮮やかだった。加地耕平(伊藤淳史)がイジメの存在の可能性を感じていながら放置していたことの責任を積木が追求した際にも、瀬里は、かつて加地の目の前で、藍沢明日香(志田未来)に対し継母の積木が冷たく接していた事実を取り上げ、藍沢を不幸にした原因は家庭環境にこそあるのではないかとの仮説で反撃したのだ。子どもの問題を考えるに際し学校よりも家庭の責任に目を向けるべきであるという見解は最近は支持される傾向にある以上、これもまた極めて有効な戦略だったと云わなければならない。積木の武器は悉く奪われた。
この間、学校の職員室内には異変があった。雨木副校長の恐怖政治においては今や加地が主導権を握るに至ったのだ。しかも極めて過激な形で。かつて辛うじて模範の教職員を演じていた八幡大輔(水嶋ヒロ)がそこから脱落したのみか、大城早紀(真木よう子)でさえ、それに違和感を抱き始めていた。ここにおいても相変わらず雨木副校長の流儀は老獪だった。加地をそこまで洗脳しておきながら、自身は逆にそこから一歩退いて、柔軟な姿勢を見せるのだからだ。これは恐ろしいことだ。裁判の勝敗が何れに決しようとも雨木副校長は何れにも妥協し得るに相違ない。その余地がある。しかし加地は強硬な姿勢を取り過ぎていて、もはや反対派とは妥協し得ないだろうからだ。
山田加寿子(鈴木かすみ)が「ポー」と自称し、本名で呼ばれるのを嫌っていたのは何故か。その真相を徐々に明らかにした描写の積み重ね、その過程が凄まじかった。それは同時に、第一話からこれまでの間の、この少女の登場した場面の全てが意味を変容させた過程でもあった。実にドラマティクに描いていた。