特急田中3号第十話

TBS系。金曜ドラマ特急田中3号」。第十話。
脚本:橋本裕志。音楽プロデューサー:志田博英。音楽:仲西匡。主題歌:KAT-TUN「喜びの歌」(J-One Records)。鉄道監修:南田裕介。制作:TBSテレビ。演出:坪井敏雄。
田中一郎(田中聖KAT-TUN])が何時になく自信を完全に喪失したのは何故だろうか。わずか数ヶ月の間に目黒照美(栗山千明)との間で余りにも多くのことがあり過ぎて、現実の厳しさを知らされて、もはや今までのようには嘘の自信を維持できなくなったという事情が前提としてあったろう。そうした中で、苦境の中を必死に頑張って仲間の花形圭(塚本高史)と桃山誠志(秋山竜次[ロバート])とともに具体的に見始めていた大きな夢が徹底的に粉砕されてしまったことで、大きな夢なんか見ても空しいこと、将来に光なんかないこと、明日はないことを突き付けられたのは致命傷だった。加えて目黒照美が職業に関することで悩んでいる今、己の悩みを明かすことで慰めを求めることもできない状況にあるという彼なりの配慮もあったろう。しかも決定的だったのは、目黒照美の悩みが、志望する仕事で千載一遇の大栄転の好機に恵まれたことに関して生じているという事実にある。派遣社員として働く目黒照美は、自身の企画が採用されて正式に会社の業務とされたのに伴い、九州の日豊本線で行く繊維工業の街、宮崎県延岡市に赴いてその業務を遂行するという極めて重要な任務を与えられたのだ。「夢」をかなえる大きな飛躍の機会だ。ここにおいて田中一郎は、目黒照美を仕事へ邁進させるために東京への未練を断ち切らせる必要があるとすれば、そのために己との決別も有効であるなら、己を悪役にしてでも別れるべく努力しなければならないと思ったに相違ない。同時に己自身の問題として、目黒照美と己との境遇の違いを感じて己自身に改めて失望したという面もあったはずだ。