喰いタン2第十話

日本テレビ系。土曜ドラマ喰いタン2 KUI-TAN 2」。第十話。
原作:寺沢大介(「イブニング」連載/講談社)。脚本:伴一彦。音楽:小西康陽。主題歌:トリオ・ザ・シャキーン「愛しのナポリタン」(ジャニーズ・エンタテイメント)。プロデューサー:次屋尚&山本由緒。協力プロデューサー:(アベクカンパニー)和田豊彦&井下倫子。制作協力:アベクカンパニー。演出:中島悟(アベクカンパニー)。
次週の最終回を前に少々謎めいた展開。横浜ホームズエージェンシーは、そのオーナー(伊東四郎)からどういうわけか一個の指輪を盗み出すことを命じられ、或る夜、それの所有者の豪邸に潜入したものの一度は失敗し、香港ホームズエージェンシーの協力をも得て作戦を続行する中、同じ夜に当の豪邸内で発生していた殺人事件の容疑者としてKUI-TANこと高野聖也(東山紀之)が緒方桃警部(京野ことみ)により逮捕されたところで今宵は終了。その続きは次週の最終回まで待たなければならない。
高野聖也が逮捕されたのは、盗みのため潜入した屋敷内の調理場にあった大きな冷蔵庫の中身に気を取られて油断して監視カメラに撮られた挙句、指輪の脇に置かれていたガラス器に触れて指紋を残してしまい、しかもそのガラス器が殺人の凶器に使用されたからだった。正義の味方が不法侵入とか泥棒とか犯罪行為に従事するのはシャーロック・ホームズ聖典でもよくあることだが、あの場合、英国紳士の権化のようなワトソン博士が親友シャーロックの大胆な手法を厳しく批判する一場面が毎度のように挿入されるし、同時にその行為には大英帝国ヴィクトリア女王陛下への忠誠において国家の平和を守るという大きな正義のため敢えて小さな悪を働いているということが前提されているから、行為そのものに違和感を抱くこともない。しかるに今回の話の場合、野田涼介(森田剛)が自分たちの行為について疑問を呈し、ワトソンのような役割を果たしたとはいえ、彼等の大胆な行為の目的は未だ全く説き明かされてはいない。現時点では単なる泥棒だ。ゆえに見ていて違和感を禁じ得なかった。これをどのように解放してくれるのだろうか。
もっとも緒方桃警部(京野ことみ)が山内崇署長(伊東四郎)に対し、高野聖也を逮捕するための公文書を施行すべく決裁を求めたとき、署長が直ぐには了解しなかったのは注意に値するだろう。緒方警部のほか五十嵐修稔刑事(佐野史郎)や深海刑事(阿部亮平)を含めた刑事たち一同に取り囲まれて追い詰められたことで、ついに、決裁を与えないわけにはゆかなくなったと見受けるが、あの様子であれば多分、何とか誤魔化して拒否できるものなら拒否したいというのが本音だったろう。署長とオーナーとの親しい関係から考えても、何か重要な事情があるのは明白だ。
というわけで何とも違和感を拭えない今宵の話だったが、唯一の見所は、盗みの作戦の一環として指輪の所有者の令息の結婚式に潜入し花嫁になりすましていた出水京子(市川実日子)を、そうとも知らず本当の結婚式と勘違いした野田涼介が、映画「卒業」(1967年)の名場面そのままに式場に乱入して奪い、連れ出し、横浜の中華街を走り抜けて逃亡してゆく場面。出水京子が白いウェディングドレスで野田涼介がピンクのシャツを着ていたから色彩も美しかった。今宵の話の中で唯一の救い。