大河ドラマ風林火山第二十九話

NHK大河ドラマ風林火山」。原作:井上靖。脚本:大森寿美男。音楽:千住明。主演:内野聖陽。演出:田中健二。第二十九回「逆襲!武田軍」。
諸角虎定(加藤武)の無念。鮮やかな戦勝のあとの雨の中、主君の武田信繁嘉島典俊)に対し、無念の思いに満たされていることを明かして絶叫した。しかし確かに無念であるだろう。ともに永年の重臣である甘利虎泰竜雷太)や板垣信方千葉真一)がそれぞれの仕方で主君を諌め、家臣団の結束を固め、さらには敗戦後の再起を賭けた逆襲まで見据えて味方を繋ぎ止める策までも打っていた中、老臣の彼のみはその一部始終を観察する以外になかったのだ。しかも恐らくは生き残った彼が逝去した両名の分まで役割を果たせるわけでもないだろう。小山田信有(田辺誠一)が述べた通り、武田晴信市川亀治郎)の支えとなり得るのは板垣の遺志を読み抜いて受け継ぎ得た者、恐らくは山本勘助内野聖陽)であるだろう。老臣の諸角は、彼自身の云った通り、時の変転の中で取り残されてしまった。これ程の無念はないだろう。老兵として悲しみ叫んでいた彼の腕に、若い主君が優しく手を触れたのも味わい深かったところ。時は移ろい、保護者の立場が入れ替わる。
武田軍が諏訪明神の御神号の旗を掲げたのに呼応して諏訪満隣(小林勝也)が本陣に現れ、先陣を仰せ付かりたいと申し出たのは、中世の物語に相応しいドラマティクな展開だった。
対する敵方。高遠頼継(上杉祥三)は頑張っていたのに、小笠原長時今井朋彦)の何とも意欲を欠いていたこと。夏の暑さに負けて鎧を脱がざるを得なくなるのであれば、そもそも夏に出陣しなければよかったのに。しかも結局、孤軍奮闘の高遠は捕らえられてしまい、小笠原は辛うじて逃走し生き延びたのだから不条理ではある。それにしても真夏の炎天下の陣中、水浴していた裸の兵の後姿が見事だった。あんな美麗な身体の兵は当時はいなかったに相違ない。小笠原は小姓に樹の枝を持たせて木蔭を作ろうとしていた。