旅行記二

朝なかなか起きることができなくて、起きたのは九時頃。それから大急ぎ準備して外出。新宿駅から神田駅を経て上野駅へ。国立西洋美術館で開催中の「パルマ-イタリア美術、もう一つの都」を見物。美しい作品ばかりで見応えがあった。特に面白かったのはフレスコ画の断片の数々。フレスコという技法の本性のゆえに細密な描写が不可能であるので、最小限度の筆致と彩色で素早く簡潔な表現が行われていて、それが実に心地よいのだ。ラッタンツィオ・ガンバラのフレスコ画「アポロ」の、古代ギリシア彫刻の完全性を想起させる美しさも、一つにはその無駄のない単純な表現によって生み出され、或いは強調されているように思う。この美しさは油彩画によっては創り出せないのではないだろうか。コレッジョの「階段の聖母」はフレスコ画ならではの単純な描写によっても豊かな情感が表現されている。とにかく見応えのある作品と資料が多く、見終えるのに約二時間を要した。それで常設展示については新収蔵品を中心に約三十分間で見て、昼二時頃に館を出て急ぎ同じ上野恩賜公園内の東京国立博物館へ。足利義満六百年御忌記念「京都五山-禅の文化」展を見物。この館における特別展の常として今回も当然ながら観客が多く、思うようには見ることができなかったが、水墨山水画の数々には見入らざるを得なかった。岳翁蔵丘の山水図が多く出ていたが、何れも観者を画中に遊ばせてくれる面白さがあった。夕方四時頃、平成館から本館へ移動し、絵画を中心に観照。近代美術室の荒木寛畝「阿房宮」、川端玉章「玩弄品行商」、書画室の谷文晁「公余探勝図巻」巻下、伝小田野直武「布袋図」が面白かった。歴史資料室の博物図譜の類も面白かった。五時半頃に急ぎ東洋館へ行き中国書画室のみ観照。表慶館も五分間だけ覗いて六時の少し前に東京国立博物館を出た。夕闇の中、上野東照宮を門外から眺めて上野恩賜公園を去り、新宿へ戻ったのは七時頃。