仮面ライダー電王第三十四話

テレビ朝日系。「仮面ライダー電王」。長石多可男演出。第三十四回「時の間のピアニスト」。
時空を超える電車「デンライナー」の食堂車に時々表れる乗客たち。家族連れもいたかと記憶するが、あの時間旅行者たちはどのような人々であるのか?この素朴な疑問に対する一つの回答が今朝の第三十四話で得られた。だが、それは悲しく恐ろしい事実ではある。
時間の運行上に敵イマジンが何らかの暴力を加えた場合、未来の時間(ここでは現在=二〇〇七年)には深刻な改変が生じる(具体的に云えば、敵イマジンによる暴力の影響を受けた人や物が消滅する)が、もし仮面ライダー電王が敵イマジンによる攻撃を受けた時間へ飛んで敵イマジンを打倒すれば、改変されようとした未来の人々がそれぞれ記憶する範囲内で、未来は復旧される。しかし、当の未来の人々が誰一人として記憶しない人や物が万が一にも存在するとすれば、そうした人や物は復旧し得ない。消えたまま。戻っては来ない。今回の場合、ピアノ男(諏訪太朗)がそれだった。彼のことを記憶するのは恐らくは、かつて天才ピアニスト少年と称えられた青年、奥村祐希(尾関伸嗣)一人のみ。しかし彼は、かつてピアノ男の眼前で交通事故に遭って以来、寝たままで目を覚ましてはくれない。奥村青年が目を覚ますまで、ピアノ男は消えたまま。では、それまでの間、彼はどこにもいないのか?否、デンライナーに乗車して来たのだ。桜井侑斗(中村優一)がピアノ男の記憶を探るためにかざしたチケットが、そのままピアノ男がデンライナーに乗車するためのチケットに化していた。
時折デンライナーの食堂車に姿を見せてきた静かな乗客たちは、一見、時間の電車旅行を楽しんでいる優雅な人々のようでさえあったが、実は本来あるべき時間の隣人たちに忘れられたまま、時間の運行上に居場所を失ってしまった気の毒な漂流者だったわけなのだ。悲しく恐ろしい事実だ。
野上良太郎佐藤健)は、侑斗に対し、人々の記憶から消えてしまうことの悲しさを力説した。怒ったような、詰問するような口調で。だが、そうした悲しさ、恐ろしさを誰よりも知っているのは侑斗なのだ。ピアノ男が消えたまま戻っては来ない事実を知って愕然とした良太郎に対し侑斗が怒ったような表情で接したのは、侑斗がこれまで恐れ続けてきた事態が遂に発生してしまったことへの怒りを抑え切れなかったからだろう。同時にそれは、侑斗自身が見舞われるかもしれない事態でもある。侑斗が今まで、どんな思いで戦い続け、そして同時に、変身用カードを節約し続けてきたことだろうか。大いに想像力を働かせて見直さなければならないだろう。