歌姫第七話

TBS系。金曜ドラマ「歌姫」
脚本:サタケミキオ。主題歌:TOKIO青春(SEISYuN)」。制作:TBSテレビ。演出:サタケミキオ。第七話。
このドラマは何時も大概、終わりの数分間に大きな見せ場を用意しているが、今宵のは実に、視聴者を動揺させずにはいない大きなものだった。東京から土佐清水へ再び来た及川美和子(小池栄子)が、映画館オリオン座で四万十太郎(長瀬智也)相手に告白したのだ。戦時に学生結婚をして、学徒動員で出征したまま行方不明になって、再会できないまま十年を経て、それでも今なお愛し続けている自身の夫「ゆうさん」が、その頃の記憶を全て失っている太郎その人に他ならないことを。恐る恐る探るような語りかけから真実の告白までの流れは、美和子の感情の抑え難い力が理性による抑制を突き破って噴出してゆく過程そのものと云ってよかった。告白によって事態を打開しようと目論んだのではない。告白せざるを得ないところまで自らを追い込んでしまっていたのだ。それを見事に演じ切った小池栄子に盛大な拍手を。
他方、その衝撃の告白の場を目撃してしまった岸田鈴(相武紗季)は、幼時から常に最も恐れ続けてきた事態が今まさしく眼前で始まろうとしているのをどうすることもできないでいた。太郎が「ゆうさん」時代のことを何一つ憶えていないばかりか、とても思い出せそうにもないのを改めて思い知って、ついに告白せずにはいられなくなった美和子の苦悩と、美和子の出現それ自体が太郎の記憶を甦らせる契機になるかもしれないことを恐れていた鈴の、この衝撃に接したときの絶望と苦悩。その対比がドラマティクだったが、さらにドラマを加速化した要素として太郎自身のここ数日の苦悩もあった。美和子の出現に伴う鈴の動揺が、太郎にも色々物思わせていたからだ。あの数分間の告白の場に集約された三つの感情の動きと連鎖、交錯。先週の第六話からのこの盛り上がり方は、先々週までの五話からは予想もできなかったと云わなければならない。
今宵のもう一つの見せ場は、土佐清水の民宿「さば塩」の女将、鯖子(斉藤由貴)の過去が明らかにされたこと。鯖子が街中を見回るかのように歩き回り、見慣れない客を見付けては自身の宿に泊めようとするのには悲しい過去があった。鯖子の過去は云わば美和子の現在に近い。それにしても、美和子の出現に対するジェームス(大倉忠義)の動揺を見ていると、鈴を守るのは太郎でなければ彼しかいないと思わせてしまう。クロワッサンの松(佐藤隆太)では説得力がない。
鯖子の戦後間もない頃の格好は、所謂はいからさんのような海老茶式部みたいな感じだった。昭和初期にも全くなかったとは云えないが、それの相応しい時代を問うなら昭和どころか大正モダンの時代をも超えて明治ロマンの時代に遡るのがよい。ともあれ、斉藤由貴の海老茶式部はいからさんマドンナ扮装は往年のアイドル時代を想起させて、これまた大きな見所だった。