仮面ライダー電王第四十六話

テレビ朝日系「仮面ライダー電王」。舞原賢三演出。第四十六回「今明かす愛と理(ことわり)」。
大雑把に云えば二つの事情の解明があった。関連して色々な事情を想像することもできた。今年の最後の放送に相応しい内容だったと思う。
一つ目。一年前の湖における愛理の事件について。
青年=桜井侑斗(所謂「桜井さん」)が湖で失踪した日、その湖に佇んでいた彼の婚約者=野上愛理(松本若菜)は、多分、自殺を図ったのではなかったろう。青年=桜井の失踪は実は失踪ではなく、カイ(石黒英雄)との闘いにおける一時の敗北であり、愛理はそのことを理解し、愛する桜井によってやがて時間の回復されるだろうことを信じていた。そして二〇〇七年から一年前のその現場へ飛んだ野上良太郎佐藤健)と少年=桜井侑斗(中村優一)が目撃した愛理の消滅という事態の直後には、デンライナーによる救出があったようだ。
デンライナーに招かれた愛理は、戦い終えた良太郎と少年=侑斗の前に現れ、愛理と良太郎と時間を守るために戦っている侑斗に感謝し、また意外にも侑斗とともに戦いに加わっていた弟の労苦を労った。こうして、全ての事情を知る愛理は大切な人々への感謝の思いを明かしたのち、再び湖へ戻り、恐らくはそのとき、そこにおいて大切な記憶の一部を喪失した。一年前の良太郎が現場に到着したのはそのときだった。
ここから想像できるのは、良太郎の記憶に重大な欠損があった理由は必ずしも、良太郎の記憶が何らかの力によって損なわれたからではないということだろうか。少なくとも一年前のこの湖における失踪と記憶喪失の事件に関して劇中の描写にのみ拘泥すれば、良太郎は最も肝心な瞬間を見ていないと見えるからだ。湖の悲劇について良太郎の証言が充分に信頼できる内容ではなかったのは、良太郎が何も見ていなかったからに他ならない。
他方、八月の良太郎が半年後の彼自身に対して懐中時計の贈物をした件については、確かに良太郎には記憶の欠損が生じているに相違ない。
二つ目。桜井と侑斗とデネブとの関係について。
侑斗の従者、デネブ(声:大塚芳忠)は元来はカイ配下のイマジン軍団の一員だった。しかるに彼は、大勢の敵を相手に孤軍奮闘していた青年=桜井を気の毒に思い、助けたくなって憑依した。そして両名は契約を締結したが、桜井の提起した条件は、少年時代の己自身にゼロライナーを与え、ゼロノスに変身させて戦わせること、デネブにはその手助けをさせることだった。
真の時間の「分岐点」は愛理だったが、愛理を守り時間を守るのは桜井=侑斗である以上、青年=桜井(「桜井さん」)を「分岐点」と見るのも、副次的には正しく、必ずしも間違ってはいなかったようだ。
少年=侑斗が青年=桜井を喪失した二〇〇七年に着いた時点では、彼は将来の婚約者である愛理については桜井から口頭で得た情報のほか何も知らなかったはずで、だから彼は初対面の愛理が「桜井侑斗」の失踪について何も記憶していない様子であるのを見て苛立つのみだったのだ。そこに愛は殆どなかったに等しい。しかし、あの青年=桜井が愛理を愛したように、少年=侑斗もまた喫茶店ミルクディッパーに足繁く通っては愛理への愛を深め、愛理もまた、かつて大勢の求愛者に靡くこともなかった中、青年=桜井に瞬時に魅了されたように、不思議な少年=侑斗への愛を深めていた。それは必然なのだ。
今朝の第四十六話におけるデンライナー内の愛理と侑斗の対面において、愛理は婚約者についての記憶を喪失する前の愛理であり、従って眼前の少年が愛する桜井侑斗の少年時代であることを瞬時に解することができた。その少年とは初対面だったが、愛する人の少年時代の姿であることを一見して察することができたし、またその少年が、愛する人の指令によって闘いに明け暮れる苦難の日々を生きているだろうことを知っている。対する侑斗は、将来の己が愛した人が己についての記憶を失った状態にある二〇〇七年に来てその人に出会い、将来の己がその人を愛したように愛し始めていた。デンライナーから降りて再び運命の湖へ戻ろうとする愛理に侑斗が一輪の白い花を捧げ、愛理がそれを手にし、胸に抱いて、悲劇の湖へ戻ったのは、時空の捩れの中で時空を超えた実に不思議な愛の確認だったのだ。