旅行記二

午前十時頃に博多駅を出発し昼頃に長崎駅へ。皿ウドンで昼食。徒歩で長崎県美術館へ。開催中の「日本近代洋画への道」展を見た。山岡コレクションを公開する展覧会で、既に各地で開催されているかと思うが、今日ここで初めて見ることを得た。ワーグマンや二世五姓田芳柳や小山正太郎の作品が多く出ていて、学術的に興味深かった。小山正太郎の「山村嫁女」は石井柏亭の批評によって伝えられる明治美術会出品作の習作なのだろうが、描き方が新潟県立近代美術館蔵「仙台の桜」によく似ている。「仙台の桜」等を見て思うのは、小山正太郎は同時代のどの画家よりも個性的な、極めて大胆な画法を編み出した人ではないのか?ということ。逆に「吉野山遠望」は洗練された表現で、淡く明るい色彩が大和絵風でさえある。彼の日本画批評を想起すれば色々肯けるところ。この展覧会を見たあとは同館の館蔵品展を見た。栗原玉葉日本画「母の愛-孟母断機図」における孟子の小さな後姿が最も印象深かった。東松照明の長崎を写した写真が面白くて、長崎の街を歩きたくなり、屋上の展望台に上がったあと館を出た。とはいえ目的地を定める必要があるので先ずは長崎歴史文化博物館を目指すことにしたが、途上、出島(国指定史跡「出島和蘭商館跡」)の洋館が見えたので寄ることにした。大変に面白く、ここだけで一日を過ごすこともできると思ったが、今日は時間がないので急ぎ、新地中華街を通り抜け、唐人屋敷跡を見物。ここまで徒歩だけで移動してきたが、流石に日が暮れてきたので湊公園でタクシーに乗り、長崎歴史文化博物館へ。畳敷きの展示室内の床の間に立派な掛軸があり、外国人観光客と思しい人々がそれを撮影していて、付き添っていた展示ガイドの人もそれについて何も咎めていなかった。「撮影しても可なのか?」と思い、同じく撮影したが、よく見ると「撮影禁止」と書いてあるではないか。慌てた。その大幅「香山九老図」について、当のガイドの人は「文化財にも指定されている」と解説していた。常設展示室の奥にある美術展示室では幕末の長崎派の文人画を展示していてそこは見応えがあった。閉館時間の夜七時の少し前に館を出た。十時までに博多へ帰るためには七時半の特急に乗らなければならないので、再び新地中華街まで戻って夕食を摂るような余裕は全くなかった。誠に残念。