新番組=1ポンドの福音第一話

今宵からの新番組。
日本テレビ系。土曜ドラマ1ポンドの福音」。
原作:高橋留美子1ポンドの福音』(小学館)。脚本:福田雄一。音楽:井筒昭雄&川嶋可能。主題歌:KAT-TUN「LIPS」(J-One Records)。プロデュース:河野英裕/小泉守&下山潤(TMC)。制作協力:トータルメディアコミュニケーション。第一話。演出:佐藤東弥
亀梨和也一年振りのドラマだが、素直に大いに楽しめた作としては二〇〇五年初冬の日本テレビ土曜ドラマ野ブタ。をプロデュース」以来の約二年振りの感がある。大人気のマンガ家の作品に基づいているので物語の面白さについては保証されているにしても、その描写に停滞感がなく快適だったのが実によかった。出演者の顔触れが魅力的であるのも大きい。なにしろ向田ボクシングジムで畑中耕作(亀梨和也)とともに練習に励んでいる仲間たちを演じるのが、上田役の岡田義徳、石坂役の高橋一生、堀口役の石黒英雄、児島役の波岡一喜。現今、若手男子俳優の数多くいる中、ここまで曲者ばかりを選び抜いたのが素晴らしい。岡田義徳高橋一生波岡一喜のような芸歴豊富な人々に並んで石黒英雄が加わっているのが上手い。ジュノンボーイ出身のこの一見「イケメン俳優」がなかなかの曲者であるのは「仮面ライダー電王」における悪役振りを見ている者であれば知っている。
亀梨の容姿は、実のところ高橋留美子の描く少年の容姿とは殆ど対極に位置するとも云えるが、ドラマを見ている内に次第にそれらしく見えてきたような気がしたのは、演技と演出が上手く行ったからだろうと思う。
シスターアンジェラ役の黒木メイサは、普通の少女役を演じると何だか現実味の乏しい感じになってしまいがち(当人は確かに現実の生身の人間であるにもかかわらず)だが、修道女の格好はよく似合っている。洋風の形姿の修道女で、声も強く明確に響くので、困っているときにあの顔のあの声で救いの手を差し伸べられると、確かに「マリア様」みたいに見えるかもしれない。
この若い修道女、確り者のようでいて意外に何も知らず何も分かっていなくて、その所為で畑中耕作の勝負を惑わせてしまった。そこは流石に視聴者としても焦ったが、それにしても、修道女の格好のまま自転車に跨り全力で疾走した姿は傑作だった。
純潔であるべきシスターアンジェラに妙な若い男子=畑中耕作が接近するのを警戒するシスターミリー(江口のりこ)の、妥協のない堅苦しさもよかった。修道院長(もたいまさこ)の、いかにも老成して清濁併せ呑んだ感じの風格もよかった。
街の外れの小さなボクシングジムを父親から受け継いで経営している向田聖子(小林聡美)が、見るからに強そうなボクサー集団を従えた大手ボクシングジムの高山会長(ベンガル)に食ってかかるところは、小さく弱く貧しくとも決して夢と誇りを捨てない心をよく表していて、やはりよかった。同じ意味で、畑中耕作を相手に引退前の最後の試合を戦った鬼丸勝兵(田中要次)の家族の話も実によかった。彼は己のボクシング人生を、どんなに負け続けの歳月であろうとも誇りに思いたいのだろうし、妻も子もそうだったのだ。だから彼の妻は畑中耕作に対し「あの人をとことん打ち負かして、諦めが付くようにしてやって欲しい」と頼んだ。勝敗の行方がどうあろうとも勝負は常に真剣でなければならないし、たとえ負けても真剣な勝負の結果である限り、人生に対する誇りは失われはしない。世間を知らないシスターアンジェラに欠けていたのは、そうした勝負の世界に対する認識だった。それが畑中耕作を惑わせた。負け続けの鬼丸勝兵が、所属ボクシングジムにおいて後輩たちから尊敬され、指導者として仰がれていた姿も一瞬だけ描かれたが、やはり見逃せない重要な場面だったと思う。彼の勝負にかけた人生は、妻や子ばかりではなく周囲の人々皆の誇りであり、それが畑中耕作やシスターアンジェラにも伝わったのだ。
畑中耕作のアルバイト先「三品食堂」の人気メニューも素敵だった。牛丼にトンカツを載せて玉子まで載せた奴。見た目は美味いのかどうか定かではなさそうだが、ああいう店のああいう料理が意外に美味い。あんな感じの小さな食堂を守るのは老いた夫婦であるというのが一般的な光景だろうが、三品食堂には紀子(南沢奈央)という看板娘がいる。シスターアンジェラの厳粛な風格とは正反対の、とても庶民的で親しみ易い感じの魅力があった。