あしたの、喜多善男第三話

フジテレビ系(関西テレビ)。「あしたの、喜多善男〜世界一不運な男の、奇跡の11日間〜」。
原案:島田雅彦『自由死刑』。脚本:飯田譲治。音楽:小曽根真。主題歌:山崎まさよし「真夜中のBoon Boon」。第三話。演出:麻生学
喜多善男(小日向文世)という人物の現状や風情については第一話を見た時点で「形容し難い気持ち悪さ」を感じたことをここに書いたことがあるが、今宵の第三話ではそうした気持ち悪さが、殆ど嫌になる程に徹底して強調されていた。鷲巣みずほ(小西真奈美)の眼に映る彼の姿があれなのだろう。実に気持ち悪く、恐ろしくさえあった。
だが、鷲巣みずほはどうしてあんなにも喜多善男を嫌い、恐れなければならないのだろうか。彼から「愛し合えた唯一の女がおまえだ」と云われて強烈な嫌悪感を示し、唯一の愛する女として思われながら死なれたくはないこと、死ぬ前の九日間に誰か相手を見付けて欲しいことを告げたが、一体どういうことだろうか。単純に、彼に一方的に強烈に愛されたまま死なれることの重みにとても耐えられないからだろうか?それとも案外、愛する女を一人しか知らないまま彼が寂しく死んでゆくだろうことを哀れんだのだろうか?前者であるなら「愛し合えた」事実なんか存在したこともないのかもしれないし、後者であるとすれば「善良が服を着て歩いている」かのような彼を、孤独と不幸の十一年間へ陥れたことについて、責任を感じているのかもしれない。しかし両者は両立可能だろう。
真相については杉本マサル(生瀬勝久)による解明を待つべきだろう。十一年前に亡くなった三波貴男(今井雅之)に、謎を解く鍵があるらしい。
何もかも嫌なことを忘れようとする喜多善男の前に出現する彼の妄想の中のもう一人の彼自身=「ネガティヴ善男」(小日向文世)は、決して単なる嫌がらせをしているわけではない。周囲の人々の言動や己自身の心の嫌な面、弱い面を確と認識して、向き合った上で前向きに進んでゆくことこそが必要であるのだからだ。例えば、元妻の鷲巣みずほの嫌な面を正しく認識した上で己の中で決着を見ないことには、幸福な結婚から突然の離婚への暗転を直視することもできないまま方向展開を図ることもできず緩やかながらも終わることのない不幸の中を漂流してゆくほかないだろう。
それにしても、喜多善男の頭上に街中の看板や街灯の類が幾度も落ちてくるのは何だろうか。何の意図もない事故の連発だろうか。それとも何者かの意図によるものだろうか。前者であれば不幸の十一年間を歩んできたと云う彼に相応しい不運の連発と云うほかない。後者であれば、誰の意図であるのか、その意図の目的が何であるのかの解明を待たざるを得ない。喜多善男に保険金をかけた矢代平太(松田龍平)と長谷川リカ(栗山千明)は、現時点では該当者ではなかった。