刑事の現場第一話

NHK総合土曜ドラマ「刑事の現場」。
作:尾西兼一。音楽:coba。主題歌:大橋卓弥スキマスイッチ)。演出:柳川強。第一回「苦い逮捕」。
愛知県警察東和警察署の捜査課。捜査一係長の伊勢崎彰一警部補(寺尾聰)と、捜査二係長の野下浩美警部補(石倉三郎)、捜査課鑑識係主任の守本真二巡査部長(宇崎竜童)は定年間近のヴェテラン。あらゆる捜査の現場を経験していて、事件というものを知り尽くしている。もちろん交番勤務の大島巡査(苅谷俊介)も同じくヴェテラン組の一人だ。
対するに、捜査一係の加藤啓吾巡査(森山未來)と古川良介巡査(忍成修吾)、鑑識係の木島昭太巡査(三浦アキフミ)は新人。小さくはない警察署に配属されて、責任感も誇りもあるし、公務員としての知識や倫理もあるが、まだまだ経験不足で現場に固有のやり方を知らないし、何よりも事件というものの深みをまだ知らない。
ヴェテランと新人の中間の位置にあって独自な路線を歩んでいるのは、捜査一係主任の岸田渉巡査部長(浜田学)。情報技術(IT)を自在に操って合理的な操作方法を確立し、旧来の「脚で稼ぐ」手法から脱却しようとしている。反面、わずかな徴候から推理を展開してみせる勘のよさと、感情を配した冷徹な姿勢は、合理主義の表れであるよりはむしろ現場での経験によって鍛え上げられたものではないかとも思う。他方、同じく主任級でも捜査二係主任の瀬戸山瑞穂巡査部長(池脇千鶴)は、旧来の手法でなければ上手くは行かない場面のあることを感じていて、その意味で岸田巡査部長の手法よりは伊勢崎警部補の手法に共感するところ大のようだ。でもヴェテラン組の一人である東和警察署副署長の桐島奈津子警視(真野響子)から見れば瀬戸山巡査部長もまた、上司に対する口の利き方も知らぬ今時の若者の一人に過ぎないようだ。
主な登場人物の関係は以上のような構図を作るが、さらに見てゆけば新人の中にも色々いると気付く。加藤啓吾巡査は自身の信念や思考、正義感に自信を持っていて、それを悉く却下する伊勢崎係長の虚無主義的な言動と説明不足に対しては反発を感じているが、木島昭太巡査は弱音こそ吐くものの、上司に反発することはない。絶妙なのは古川巡査で、岸田巡査部長の合理的な手法には従いつつも、伊勢崎警部補の古風な手法をも確り学び取り、取り入れようとしているし、交番勤務の大島巡査には最も敬意と共感を抱いてもいる。最も「今時」で、それでいて最も古風な気質も備えているようなのだ。そして彼等三人は実は同期で、仲もよい。よい関係なのだ。
以上のような登場人物の設定だけ見ても既に面白い。話も面白かった。映像も。特に、教会に隠れていた犯人スギハラヒロキ(高良健吾)の悲しみに満ちた告白を伊勢崎警部補と加藤啓吾巡査が聴く場面の、礼拝堂の窓から射した夕陽が暗い空間内に彼等三人を浮かび上がらせた逆光の美学が実によかった。最終回まで約一ヶ月間の全四話。欠かさず録画して全て見届けなければならない。
なお、どうでもよいことだが、今宵このドラマには「ウォーターボーイズ」が三人も出ていた。森山未來は二〇〇三年テレヴィドラマ「WATER BOYS」に主要五人組の一人、「タテノリ」こと立松憲男役で出演。準主役だった。三浦アキフミは、その原作にあたる二〇〇一年の映画「WATER BOYS」に主要五人組の一人、太田祐一役で出演(当時の名は三浦哲郁)。そして日系ブラジル人スギハラヒロキを演じた高良健吾も二〇〇五年「WATER BOYS 2005夏」に出演していた。シンクロ公演に参加する南の島の住人、海人役だった。彼は同年の春「ごくせん2005」にも黒銀学院3年D組生徒役の一人として出演して注目されていたのだ。他方、高校生役を(今なお)得意とする忍成修吾は、数多くの学園ドラマに出演してきたにもかかわらず何れにも出ていない。