旅行記一

連休の後半の初日。旅行記一。
朝七時頃に目を覚まして準備を整え、昼一時半に伊予国松山の道後を出発。二時半に松山空港を発って夕方四時頃に羽田の東京国際空港に到着。そこから日本橋を経由して竹橋へ。東京国立近代美術館で開催中の大展覧会「東山魁夷展」を観照した。正直なところ、この画家には今まで大して興味を持ったこともなかったのだが、こうして改めて主要作品群を細部まで詳しく見ながら画業をたどると、思いのほか「芸が細かい」のに驚かされた。やはり巧い。そして何と云っても圧巻だったのは唐招提寺御影堂の障壁画。関連して多くの下図や試作も出品されていて興味深かった。大海の波を描く壮麗な襖絵「濤声」は、奈良の唐招提寺の最も重要な御堂に相違ない御影堂の宸殿の間を彩っていて、その襖の奥に、あの有名な国宝「鑑真和上坐像」が鎮座なさる。吾、かつて一度、御影堂の宸殿の間の畳の上に座したことがあるが、それは素晴らしく晴れた日の昼間のことで、障子を通して柔らかな陽光が差し込み、東山魁夷の襖絵の、美しく青い波の輝きにそれが反射して、空間の全体を優しく青く照らし出していた。美麗だったのを記憶する。
東山魁夷展を見たあと急ぎ足に常設展も観照。念のため云えば展覧会の会期中、金曜日と土曜日には夜間開館が行われていて、夜八時まで開いているのだ。だからこそ今日ここに来たとも云える。事前に聞いた噂では、東山魁夷展は流石に大人気の大盛況で、通常の時間に行けば人混みが凄まじく、殆ど絵を見る環境にはならないとのことだったのだが、夜間に行くと流石に客も少なく、かなり余裕があった。じっくり観照できた。常設展示室に至っては閑散としていた。しかし川合玉堂の「行く春」屏風(重要文化財)や、菊池芳文の「小雨降る吉野」屏風、原田直次郎の奇想の大作「騎龍観音」(重要文化財)、和田三造の男性裸体の傑作「南風」、さらには富岡鉄斎「花は桜、人は武士図」、土田麦僊「舞妓林泉」、中村彝の「エロシェンコ氏の像」(重要文化財)、岸田劉生の「麗子五歳之像」と「切通之写生」(重要文化財)、萬鉄五郎の「裸体美人」(重要文化財)と「もたれて立つ人」等、傑作の数々が惜しげもなく並べられていて実に見応えがあった。
夜八時に館を出て九時十五分頃にホテルへ入った。