旅行記二

連休の後半の二日目。旅行記二。
ホテルで朝食。何時になく健全な朝。そして十時に外出。JR新宿駅まで歩き、神田駅を経由して上野へ。しかし上野駅の公園口は普段にも増して凄まじい大混雑。動物園の客が多かったのかもしれない。亡きパンダへの弔問者も少なくなかったろうか。仕方なくパンダ橋口から出て遠回りして上野恩賜公園へ。国立西洋美術館で開催中の展覧会「ウルビーノのヴィーナス-古代からルネサンス、美の女神の系譜」を観照。学術的にも芸術的にも素晴らしく意義のある企画で見応えがあった。西洋美術における女性ヌードの問題は、古典学者ハヴロックの著「衣を脱ぐヴィーナス」において源流のプラクシテレース作クニドスのアプロディーテーをめぐり考察されているし、ルネサンス時代のティツィアーノ等のヌード画に関しては歴史家ギンズブルグがポルノとの関連で考察したのを読んだことがある。裸体美人画とは何か?というのは今日の問題でもある。今回の出品中、ラファエッロの素描に基づくマルカントニオ・ライモンディの版画を粉本とした十六世紀イタリアの画家の作「パリスの審判」に登場する人々が、三百年後、マネの話題作「草上の昼食」にそのまま応用された事実は象徴的だと云える。実に価値ある展覧会だった。今後は男性ヌード(アポローンやヘルメース等)も取り上げて欲しい。
この展覧会を見たあと売店に寄ってから常設展も観照。昼三時頃に国立西洋美術館を出て、次に、東京都美術館で開催中の日仏交流150周年記念の展覧会「芸術都市パリの100年展」を観照した。十九世紀、芸術の都と化しつつあったパリで万国博覧会が幾度も開催された時代の、エッフェル塔の建設に象徴される近代都市の整備、街の変貌、様々な階級の人々の生活の変化の様子を、当時の絵画や版画や素描や古写真で見せる極めて楽しい内容。都市生活の近代化と、近代芸術の流れとを同時にたどることのできる展覧会と云える。
夕方四時半頃に東京都美術館を出て歩いていたところ上野動物園の入口の前に出てしまった。夕方なのに、かなり賑わっていたようだった。入口の前での放送によると本日は「みどりの日」に因んで無料開放をしていたらしい。無料で入園できたのか。なるほど、それで今朝、JR上野駅の公園口が尋常ではない混雑だったのか。試しに入ってみようか?とも一瞬は思ったが、やはり通過して、その先にある上野東照宮へ参詣した。拝観料(格安)を納めて社殿を拝見したところ、金色殿の中にまで入れてもらえた。解説文によると本来そこは将軍家の方々しか入ることを許されない場所だったとか。誠に有り難いこと。中には宝物の展示もあり、「東照大権現徳川家康の甲冑や徳川吉宗の書画を見ることができた。狩野派の手になる唐獅子の壁画も迫力があった。よく見ると鶴や梅の壁画もあったが、傷みが激しいのが痛ましいことだった。東照宮の全体として修復の必要があるのかもしれないが、それにしても昔日の豪華な造形は確と伝わる。何よりも荘厳な雰囲気、神聖な威厳には圧倒された。流石、この国の守り神に相応しい空間だった。上野駅から東京駅を経て中央線で新宿駅へ。紀伊国屋書店で三冊の買物をして、昼食を兼ねた夕食を摂ってからホテルへ戻った。