旅行記四

連休の後半の四日目(最終日)。旅行記四。
今日は快晴。昨日も晴れていて欲しかった。ともかくも今日で東京滞在も終わり。八時頃にホテルの食堂に行けば昨日の大混雑からは一転、今朝は再び快適だった。三日間に購入した山積みの図録や書籍を宅配便により発送すべく手続を済ませ、荷物をまとめて十時にホテルを退出。JR新宿駅から神田駅を経て上野駅へ。最終日の今日、行き先は無論、東京国立博物館
東京へ来る度に殆ど必ず訪れるのが東京国立博物館で、その際の順番としては最初に平成館の特別展を観照したのち本館の絵画展示を観照するのを常としてきたが、困ったことに今回、平城遷都一三〇〇年記念「国宝薬師寺展」では混雑に伴う入場制限が行われていて、二十分間も待たなければならないとのことだった。待ち時間が勿体無いので、先ずは法隆寺宝物館へ。飛鳥時代の小さな金銅仏を何十体も観照して、実を云うとそれだけで満足できてしまった。しかし「薬師寺展」の入場券を購入した以上は見て帰らなければならぬ!と思い、表慶館を通り抜けて再び平成館の方角を見れば、なお混雑が続いている様子だった。そこで次には東洋館へ。ガンダーラ仏をはじめとするアジア諸地域の古代美術を何時になく充分に観照。さらに同館内の中国書画室で開催中の企画展「蘭亭序、花盛り。」をも観照した。もちろん同室に展示中の宋元明清の花鳥画も面白かった。
東洋館を出た時点で既に午後二時を過ぎていたので精養軒で昼食。ここも待ち時間が長かった。そしていよいよ、本館の玄関を入り、渡り廊下を通って平成館へ。幸い待ち時間もなく「国宝薬師寺展」の会場へ入ることを得た。しかるに場内の大混雑は凄まじかった。大体この美術歴史博物館の特別展は混雑するのが常ではあるが、ここまで非道いのは久し振りに体験した。広大な展示室内に展示されている点数は少ないのに、人込みが凄まじくて身動きも取れない有様。望遠鏡を持参していなかったら本当に何をしに来たのかも分からぬ始末だったろう。
夕方四時頃、ようやく本館へ移動。先ずは一階の歴史展示室で江戸時代から明治にかけての博物学資料群を観照。中には、予州宇和郡吉田伊達侯邸で見た珍しい魚を記録したとの記載のある図とか、大洲侯の蔵する珍しい動物図を模写したとの記載のある図とか。ユニコーンや河童(水虎)が、実在の動植物とともに博物学の対象として取り上げられているのも面白い。
近代美術室には、前田青邨筆「大同石仏」、安田靫彦筆「五合庵の春」、速水御舟筆「京の舞妓」、川合玉堂筆「溪山四時」六曲屏風一双、下村観山・今村紫紅等合作「東海道五十三次絵巻」、原田直次郎「三条実美像」、安藤仲太郎筆「大久保利通像」等。二階の国宝室に出ていたのは書の名品「法華経方便品(竹生島経)」。宮廷美術室には「男衾三郎絵巻」、伝土佐光信筆「伝足利義政像」等。水墨画室には伝周文筆「山水図」や、華麗な「花鳥図屏風」等。屏風室には渡辺始興筆「池田宿図屏風」、狩野探幽筆「琴棋書画図屏風」、海北友松筆「琴棋書画図屏風」の三点。狩野探幽の、柔らか味のある画風に魅力を感じ得た。書画室には土佐光起筆「独照性円像」、池大雅筆「酔李白図」、狩野伊川院栄信筆「琴棋書画図屏風」等が出ていた。第一の傑作は、国宝、渡辺崋山筆「鷹見泉石像」で、暫し見入った。他方、冷泉為恭筆「忠度出陣之図」に見る古代の大和絵の「復古」の試みを、住吉如慶筆「伊勢物語絵巻」巻第六に見る土佐派(大和絵)の革新や、当の土佐派を再興した土佐光起による「独照性円像」に見る中国風の写実性と比較して見ることができるのも楽しかった。
企画展示室では、新指定国宝・重要文化財の特別展観。既に五時半になろうという時刻で、もはや時間がないので充分に観照する余裕がなかったが、英一蝶筆「紙本著色布晒舞図」と岩佐又兵衛筆「紙本著色梓弓図」「紙本墨画淡彩官女観菊図」(何れも戦前の旧重要美術品から重要文化財への新指定物件)を見ることを得た。
大急ぎで博物館を出て、急ぎ足にJR上野駅へ。そこからの最短の道として、京浜東北線で浜松町へ行き、浜松町から東京モノレールの急行便で東京国際空港へ移動。夜七時発の飛行機に何とか間に合った。連休の最終日は四日間で最も慌しい日になってしまった。