絶対彼氏第五話
フジテレビ系。ドラマ「絶対彼氏-完全無欠の恋人ロボット」。
原作:渡瀬悠宇「絶対彼氏。フィギュアなDARLING」。脚本:根津理香。主題歌:絢香「おかえり」。音楽:福島祐子&audio highs。企画:金井卓也。原案協力:山岡秀雄&山縣裕児&新川早織(小学館)。プロデューサー:橋本芙美。制作:フジテレビ&共同テレビ。演出:土方政人。第五話。
面白いと思う反面、先週から今週にかけて明らかになりつつある一つの異変はその面白さを損ねつつあるとも思う。なぜならその異変はドラマの面白さの源泉とも云うべき設定を破壊するからだ。
ここに異変と云うは、恋人ロボット「理想の彼氏」天城ナイト(速水もこみち)が時々見せるプログラム上の狂いのこと。それを、開発者の並切岳(佐々木蔵之介)は「ナイトが自らの意志を持ち始めた」と表現した。
しかるに、今日の一般的な常識において解されている限り、プログラムの含意(そしてその可能性の一切)から逸脱しないのがロボットであり、換言すればロボットは「自らの意志」を持ち得ない。もし「恋愛」が自由な意志の存在を前提するものであるなら、そもそもロボットに恋愛は可能ではない。
それにもかかわらず「理想の彼氏」としてのロボットを開発し、恋愛をさせてしまう荒唐無稽な設定がこのドラマの面白さの根本であるのは明白で、もし当の天城ナイトがプログラムによって限定される言動の可能性の範囲を超えて自らの意志を持ち始め、意実上、ロボットでなくなるようなことにでもなれば、このドラマに固有の面白味は、もはや維持できないことだろう。
プログラムから逸脱して自らの意志を持ち始めたかに見えること自体が、実はプログラムの不備に起因して必然の結果として生じたことであり、プログラムにより定められた可能性の範囲を超えたものではない…ということが説明されるのでなければ、納得ゆく話ではあり得ない。
この天城ナイトの「異変」が原作の通りであるのかテレヴィドラマ固有であるのかを知らないが、意志を持ち得ない者が意思を持ち始めるという展開の荒唐無稽は、ロボットを恋人にするという設定の荒唐無稽とは異質であり、とても両立し調和し得るとは思われない。思うに、井沢梨衣子(相武紗季)と浅元創志(水嶋ヒロ)との間の、普通の人間同士の恋愛関係の深まりゆく中、天城ナイトの存在感を増大化するためには、ドラマ制作上、多少の「異変」も必要だったのかもしれない。でも、少なくとも現時点ではそれが有効な選択肢であるとは思えない。次回以降の展開を見守るほかない。
井沢梨衣子と天城ナイトが浅元創志の求める仏蘭西語の書物を探し出した洋書店は、東京神田神保町の北沢書店だ。一目で判る。天井まで達する背の高い重厚な書棚に、風格ある洋書が並んでいる様子は、書店というものの理想像を示していると評してよい。