ハチワンダイバー第三話
フジテレビ系。土曜ドラマ「ハチワンダイバー」。
原作:柴田ヨクサル「ハチワンダイバー」(集英社ヤングジャンプコミックス刊)。脚本:古家和尚。音楽:澤野弘之。将棋監修:鈴木大介八段。協力:社団法人日本将棋連盟。プロデュース:東康之。制作:フジテレビドラマ制作センター。演出:松山博昭。第三話。
これまでの二話も面白かったが、今宵の第三話は最高に面白かった。何から何まで全体も細部も一々面白かったので、感想文を書きようもない程。笑えた箇所を挙げてゆこうと思えば途方に暮れるほかない始末。
とてつもない面白さの勢いを生み出したのは、無論、「ハチワン」こと菅田健太郎(溝端淳平)と、彼の今回の相手「二こ神」こと神野神太郎(大杉漣)それぞれの、「アキバの受け師」こと中静そよ(仲里依紗)の巨大な「おっぱい」に対する殆ど爆発的なまでの欲望にあった。アキバの受け師の巨乳に対するハチワン菅田の内面に生じた欲求は既に第一話において描かれ、第二話でも強調されていたが、今宵はそれが爆発的に表明された。というか、この第三話の主題はそこにあったと云うも過言ではない。
ハチワン菅田が、これまで将棋一筋の生を歩んできて「おっぱい」なんか一度も触れたことのない童貞であることを告白したときの、二こ神とアキバの受け師の驚き方も大きかった。ああいうのを「ドン引き」と云うだろう。しかしアキバの受け師の「おっぱい」を前にしたときのハチワン菅田のあの物凄く興奮した様子は、誰がどう見ても童貞にしか見えないのではないだろうか。演じる溝端淳平が童貞であるかどうかは知らないが、ハチワンを見ていると(溝端淳平自身も含めて)もはや童貞以外の何者でもないとしか思えなくなる。あの演技は素晴らしい。
他方で、今回のハチワン菅田健太郎は、流石にかつては棋士を目指したことのある者らしく、一寸ばかり賢いところも見せた。二こ神の独特な戦い方を見て彼は(一)それが古い戦法「雁木」であることに気付き、(二)それが江戸時代に流行した極めて古い技であること、(三)その古さのゆえに今日では殆ど顧みられないこと、しかるに(四)今より二十年前、一人のアマチュア棋士がその戦法を駆使してプロ棋士の名人たちを次々破ったのを機に一時は大流行したこともあること、(五)そのアマチュアの名は神野神太郎、「雁木の神野」とも称され、神が二つある名であることから二こ神とも称されていたことを直ちに想起した。しかも、この幼少期に見た現象の想起が、やがては少年時代に恩師の鈴木歩人(小日向文世)から授かった教えの想起に繋がり、それこそがあの「DIVE!!」を可能にしたのだ。
このドラマを見ていると、ハチワンを演じる溝端淳平自身が、あたかも疲れ果てた二十六歳の青年そのものであるかのようにしか見えなくなってくるのだが、劇中に時々挿入されるハチワン青年の記憶の中の、新進棋士奨励会における修業時代の菅田少年の、白いシャツを着て清潔感のある純情そうな姿は、演じる彼本来の姿(現在十八歳、しかもジュノンボーイ!)を時々不意に垣間見せる。これも面白い趣向で、しかも効果的で上手い。
でも、昨年の夏に撮影されて今夏に公開予定の映画「DIVE!!」が公開された暁には、競泳パンツ姿の美少年とハチワンとの余りの違いに、かなりの違和感を惹起することになりはしないだろうか。それも楽しみなところ。